第33話 底辺テイマーは約束をする
その夜の食事はオックスフォード卿が約束したとおり、量と質ともに最高級の物が用意されていた。
三人が座っている大きなテーブルに蟹、海老、マグロ、サバ、クジラなど豊富な海の幸が一流の料理人の手によって色々な料理へと変貌しており、美味しそうな香りを漂わせていた。
「さあさあ、どんどん食べてください。お酒もたっぷりありますので、よろしければどうぞ」
オックスフォード卿がそう言うと、控えている使用人が俺に高そうなワインを勧めてきた。
すでにガツガツと食べ始めたシェリルを横目に、一口ワインを含むと芳醇で嫌みの無いアルコールの香りが鼻に抜けて、俺がいつも飲んでいる酒がどれだけ安物なのかはっきりと実感させられた。
オックスフォード卿は俺の冒険者の話を楽しそうに相づちをして、食事や酒を勧めてきたため、俺は良い気持ちになっていた。
「ところで、マックス殿。ドワーフの街に行かれたのですよね。どんなところでしたか?」
「スゴイところでしたよ。ものすごく進んだ文化で、彼女たちの頭はどうなっているのか、頭の悪い俺にはさっぱり分からないですが、なんだかスゴイってことだけは分かりました。この腕も彼女たちにつけて貰ったんですよ」
俺は左手の金属の義手の指を開いたり閉じたりして見せた。
こんな精巧な義手を俺は見たことはなかったし、領主の表情からも非常に珍しい事は明らかだった。
その驚いた顔を見て、俺はますます気が良くなった。こんな羨望のまなざしに見られたことなど生まれて初めてだった。これまでは蔑まれた目でばかり見られていた俺は酒の力もあり、良い気分で領主に自慢げにドワーフの街での話をしたのだった。
「それはそれはスゴイですね。ところで……」
オックスフォード卿はにっこりと笑って、ワインを一口飲み込むと、言葉を続けた。
「ドワーフの街はどこにあるんですか?」
「それはですね……」
「ねえ、マックス。そろそろ、お腹いっぱいになって、眠くなっちゃった」
そう言ってシェリルは甘えた感じで、俺の袖を引っ張った。シェリルのお腹がいっぱいになるなんて事はあり得ないだろう。ならば、わざわざそんな事を言ったのは彼に本当のことを言わずに、この食事会を終わらせろという意志表示なのだろうか。
「そうですか。奥方はお疲れのようですので、使用人に送らせましょう。マックス殿はまだ大丈夫でしょう。今夜は朝まで飲み明かしましょう」
俺と同様にかなり飲んでいるはずのオックスフォード卿は冷静な笑みを浮かべた。
その表情を見て、俺は急速に酔いが覚めてきた。
しかし、どうやってこの場を切り上げるか困っているとシェリルが助け船を出してきた。
「ねえ、マックス~」
シェリルはまるで酔っ払ったかのように、その柔らかな胸を押しつけて俺の肩に頭を寄せると、俺にだけ聞こえる小さな声でつぶやいた。
「ランリーのところに行く方法は言っちゃダメよ。ワタシが限界って言って、もう切り上げて」
「あ、ああ……すみませんが、彼女はもう限界そうなので、失礼させていただきます。今日はこのように豪華な食事をいただきまして、ありがとうございました。さあ、シェリル、行こうか」
俺はそう言うと、強引に立ち上がると、一瞬、オックスフォード卿は困った顔をした後、ナプキンで口を拭いた。
「そうですか。お二方はまだ、この街にいるのでしょう。それでは、また次の機会に楽しい話をお聞かせください」
「いや、食料などを仕入れたら街を離れます」
「それは寂しい! せっかく手に入れていただいたこの船の完成式は是非出席していただきたいので、それまでには戻ってきていただけないですか?」
オックスフォード卿は心底残念そうな顔をした。
あまりにも悲しそうな顔をするため、思わず俺は約束してしまった。
「それまでには戻ります」




