第114話 底辺テイマーは師匠の状況を聞く
武道会場は血の海と化していた。
魔獣であるジャカツの血はもちろん、モシャシュがテイムしていたモンスターたち、参加者、観客に至るまで、大勢が死傷した。
勇者サルーンもその一人だった。体中傷だらけの上、先ほどの巨大な剣の影響なのか、両膝を付き、血の海に倒れこんだ。
その勇者にゆっくりと近づく人物がいた。
サリュリである。
気絶しているサルーンに向けて剣を構える。その位置は心臓。
「汚いとか、卑怯とか言わないでくださいね。師匠をだまし討ちしたのはそちらですからね」
「ちょっと待った」
サルーンの心臓に剣を突き刺そうとしたサリュリを俺が止めた。
剣先からサルーンの胸までの距離は1センチも無い状態で剣を止めたままサリュリは俺をにらんだ。
それは、馬車で出会ってからサルーンに出会うまで優しい表情を崩さなかったサリュリは、鬼のような形相で俺をにらんだ。
「邪魔をするつもりですか?」
「いや、邪魔をするつもりはないけど、サルーンを殺して師匠の心臓は戻るのか?」
サリュリは俺の顔と自分の剣先を見返して、笑みを浮かべた。
「殺すつもりではないですよ。ただ、師匠の心臓を取り出すだすだけですよ。その結果、死んだとしても知りませんがね」
「師匠の心臓を取られたといっていたけど、勇者の心臓は師匠の心臓なのか?」
「ちょっと違うわよ。ダーリン」
首を切られたジャカツの頭と体をその体に取り込んだ巨大なクラゲの姿のハットンは、俺に話しかけた。
「どういうことだ?」
「こいつの体の中には心臓が二つあるわよ。一つが本来の物、もう一つがそこの彼のじゃないかな?」
「そうなんです。自分の心臓があるにもかかわらず、師匠の心臓を奪ったのです」
「そうなのか。俺はよくわからないけど、その剣で心臓を取り出して、ちゃんと師匠の体に戻せるのか?」
「戻すことできるか……わからない。師匠の心臓を取り戻すことばかり考えていて、戻せるかどうか……」
サリュリはここにきて、一番大事なことを忘れていることに気が付いたようだった。
現在、師匠の心臓はサルーンの中で問題なく動いている。そして心臓のないはずの師匠も生きている。その心臓を無理やり取り出し、もしも動かなくなったら師匠はどうなるのだろうか。
最悪、死んでしまう。
そう考えたサリュリの手は動かない。
「大体、師匠の心臓がなくても師匠は生きているんだろう。何か問題でもあるのか?」
「問題は大いにある。師匠は心臓が無くなってから、激しい動きができなくなった。本来であれば私など足元にも及ばないほど強い師匠が……」
「そうか。じゃあ、師匠の心臓を取り戻さないとな。ハットン、勇者の心臓を師匠に移せるか?」
「失敗してもいいなら、やってみるけど?」
「失敗したらダメに決まってるだろう。そうすると、頼れるところはあそこしかないか」
俺は遠信を取り出した。




