第103話 底辺テイマーは右腕の使い方を練習する
ハットンが俺の右腕の使い方を指導するというと、せっかく手を出さすに見物しようとしていた決闘を邪魔されて殺気立つ他の参加者にむき直した。
その距離は三、四メートル。
多数の参加者は誰からハットンに襲いかかるか牽制しあっているようだった。
そんな、冒険者達を見てハットンは笑った。
「ちょうどいいわね」
そう言うと、無造作に右腕を繰り出した。
どう考えても誰にも届かない距離のはずだった。それが、途中でゼリーのように腕が伸びて金属の全身鎧を着けた男の手を握った。
握られた男は、突然のことに思わず声を上げて、手を振りほどこうとする。
「な、なんだ。コイツ。ぐっは」
ただ、ハットンに腕を握られた男は崩れ落ちた。ガントレットの上からそれほど強く握っているようにも見えなかったのに、倒れた男はケイレンしていた。
何が起こったのが分からないのは俺だけではないはずだ。
腕を握られただけ気絶してしまう。そんな相手が参加している。敵としては最悪だろう。
大舞台の上で唯一、平然としているハットンに向かって、魔法使いらしい男が叫んだ。
「電撃だ! みんな気をつけろ。あの伸びる手から電撃が放たれたんだ」
「あら、正解よ、半分だけね。さあ、ダーリン、まずは腕を伸ばして、電撃を当てて見て。そうね。そこの魔法使いなんてちょうどいいわね」
ハットンはにっこり笑って、指摘した男を指さした。まるでマネキンに指さすように。
しかし、簡単に腕を伸ばして、電撃を発しろと言われても困る。普通の人間にそんなこと出来るはずもない。
「簡単に言うなよ」
「あら、簡単よ。あそこまで拳を伸ばそうと思うのよ。パンチするみたいに」
そう言って、ハットンは軽く拳を繰り出す。その細く美しい腕は簡単に折れそうだ。
俺はハットンの言うとおり、警戒している魔法使いに向けて思い切って拳を繰り出す。
空を切り、いつもの腕の長さで止まる俺の拳。
それを見て、他の参加者は笑いはじめた。
しかし、狙われた魔法使いはほっとすると、怒りをあらわにした。
「お、脅かしやがって、全強化。 あの見かけ倒しをやっちまえ!」
魔法使いが仲間の身体能力を強化すると、俺たちに襲いかかってきた。それに対して、サリュリが迎え撃つ体勢を取る。
それに対してハットンは文句を言う。
「ダーリンの修行邪魔しないで、戦いたいなら向こうでやって。さあ、ダーリンもう一度。もっと自分に自信を持って」
俺は、自分に自信なんて持ったことなんて生まれて一度もがない。そんな俺が急に自信を持てと言われても出来るわけがない。
「自信なんて……」
「じゃあ、あたしを信じて」
「し、しかし」
「そんなので、バカ犬を助けられると思ってるの!」
そうだ、俺が戦う相手は目の前の連中ではない。こんな奴らではない。この程度のことが出来なくてあの魔獣たちからシェリルを救うなんて出来ない。
強く思え! この一撃がシェリルを救うんだ。
俺は迫り来る戦士に向かって拳を繰り出した。
引っ張られる感覚があり、腕が伸び、戦士たちをなぎ倒した。
「お、おお! 止まらない!}
俺の腕は自ら、意思を持っているかのように向かってくる戦士たちをなぎ倒し、目標としていた魔法使いの腕を掴んだ。




