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4、職人の修行の心得


 その日も工場では新しい妖精の羽を作りました。

 そして、親方が鍵をかけて家に戻り、次の日に工場に来ると、

「やっぱり羽がなくなってる」

 ポンは2階の、未完成の羽置き場を見て途方に暮れました。

 今までもやもやと感じていた違和感は、確信となりました。それでも、それがなぜなのかわからないのです。

「未完成の羽なんて、なんでなくなるんだろうねえ」

 ピノも不思議がっています。

 それでも3人とも、考えていることは同じでした。

「やっぱり泥棒……でしょうか」

「そうだなあ」

 ポンの言葉に、親方は頷いて良いのかどうか迷っていました。

「捕まえてみようよ!」

 そこへ、ピノが元気よく提案しました。

「捕まえるって?」ポンが聞きました。

「だから、夜、隠れて見張ってさ、本当に泥棒が盗みに来ているのか見てみようよ。それで、泥棒が現れたら、わ!って捕まえるんだよ」

 ピノが手振りを大きく語っています。

「うーん、良い考えだが、ピノはダメだぞ」

 そこを親方がバッサリと切りました。

「ええ~、なんで~?」

 ピノは唇を尖らせています。親方は、ピノになんか捕まえられないと思っているのでしょうか。

「ピノ、どんな相手かわからないのに、いきなり出て行って捕まえるのは危険なんだよ」

 ポンが優しく言うと、親方は腕を組んで頷きました。

「危険?」

「そうだよ。親方が鍵をかけても入ってきちゃう泥棒だよ? もしかすると魔法使いかもしれない。それに、ピノよりも身体がずーっと大きくて強くて怖い泥棒だったら、怪我じゃすまないことになるかもしれない」

 ポンは少し脅かすように低い声で言いました。

「魔法使いなんて、こんなところまで来るかなあ」

 ピノは少し怖がりながらも、それでも自分が泥棒を捕まえたいようでした。


 それからその日は、またいつものように仕事をして、ピノは新しい作業をポンに教えてもらって、夕方になりました。

 親方が上の部屋から下りてきて、二人に言いました。

「おう、お疲れさん。どうだ、ピノは少し覚えたか」

「ここの最初のところはできるようになりました。ね、ピノ」

「はい。でも、その次のところはまだ全然できないです」

 ピノはなかなか新しい仕事ができずに、少し疲れ気味でした。同じことを何度やってもできないというのは気が滅入ります。それが一生懸命やっていることならなおさらです。

 そこで親方はピノに言いました。

「なんだ、ピノは、またそんな顔をして。いいか、職人の仕事ってえのは、一に修行、二に修行だ。就いた仕事が天職だと思って心を込めて日々己を磨く。この心構えで修業に……」

「親方、それ、毎日聞いています」

 ピノが口を挟むと、親方はピノの頭をはたきました。

「邪魔すんじゃねえ。この心構えがわかってりゃ、ちゃんと先が見えてくるもんだ。目先のことができるかできないかとか、そんなことよりも、ずーっと先を見つめてしっかり励むんだ。お前さんにはまだ、その先にあるものが見えないだろうが、それで良いんだ。だからまずは一に修行二に修行だ。そうして少しずつで良いから、心を込めて……」

「はあーい」

 あんまりにも毎日言われていてありがたみがなくなっていますが、ピノはなるほどな、と思いました。

 誰でもできるようなことを適当にやるのは職人ではありません。毎日毎日心を込めて己を磨くというのは、修行の心得です。普通の人にはできないことができるようになる、それが誇りとなって、さらにこだわりをもって自分を磨く。それでこそ職人です。簡単なことではないのです。

 その簡単ではない道を、親方も兄弟子のポンも通ってきたのでしょう。

 改めてそれに気づいて、ピノの表情はしっかりとしたものになりました。


 それから親方は、

「じゃあ、今夜は見張りをしてみようじゃないか」

 そう言いながら、毛布をピノとポンに手渡しました。

「え」

 ポンはキョトンとした顔をしています。本当に見張りをするとは思っていなかったのでとても驚きました。だけど、ピノは大喜びでした。

「わあ、よおし、頑張るぞ!」

「コラ。そうはしゃぐんじゃない。いいか、今日は見張るだけだ。誰か来ても、絶対に飛び出すんじゃないぞ」

 親方が叱りました。

「ええー!? それじゃ、見張りの意味がないじゃないですか」

「バカやろう! 見張りはそれで良いんだ。捕まえるかどうかは、それから決める。昼間ポンにも言われただろうが。危ないこともあるんだぞ」

 親方にガツンと言われて、ピノはアゴを出しておどけて見せました。

「はあーい」

 ポンはクスクス笑っています。


 それから親方は、どうやって見張りをするかを教えてくれました。

「1階には俺が行くからな。お前たちは2階だ。こっちの部屋から見張るんだぞ」

「はーい」

 こっちの部屋というのは、いつもピノが羽根布を織っている部屋のことです。ここならば、大きな機織り機があったり、その他にも大きなものがいくつもあって、身を隠しやすいからです。

「こっちの部屋の窓から入ってくることもあるかなあ」

 ピノが言いました。

「ま、ないこたあねえだろうが、考えにくいだろうなあ」

「親方は入口を見張るんですか? 一人で大丈夫ですか?」

「俺は大丈夫だ。それより、ピノが心配だ」

「えー! なんでですか! 僕はちゃんと起きていますよ!」

 ピノが大声で言うと、ポンと親方は笑いました。

「そういうことじゃなくて、泥棒が来たら飛び出して行きそうだって親方は言いたいんじゃない?」

 ポンが笑いながら言うと、親方は腕を組んで頷きました。良くわかる弟子を持って親方は幸せですね。

「眠いなら眠っちまってかまわねえが、相手が何かもわからずに無理に捕まえようとするのは危ねえからな」

「はあーい」

 ピノはこれ以上口ごたえをしませんでした。何を言っても笑われると思ったからです。それに、ピノは、泥棒が本当に現れたら、絶対に捕まえようと密かに思っていたのです。親方とポンがあれほど危ないからやっちゃダメだと言ったのに、自分にならば捕まえられると、根拠のない自信があったのでした。



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