2、まだまだ出来ない
次の日の朝、ピノがいつものように小鳥に乗って工場へ行くと、すでに親方が来ていました。いつもは、ポンが一番に来ているのですが、鍵が閉まっているからでしょう。親方が先にきていました。
「親方、おはようございます」ピノが挨拶をしました。
「おはようございます」ポンもすぐにやってきました。
「おう、おはようさん」
「ポン、おはよう~」
工場の朝はとても爽やかで、太い木の幹をくりぬいた部屋には朝日が差し込んでいます。
みんなで挨拶をして、親方から一日の仕事の内容を聞き、今日も一日が始まります。
「じゃあ、今日もよろしく」
「よろしくお願いします」
親方はいつも通り3階へと上がって行きました。階段の途中にある窓からはほんのり秋の色に色づいた葉っぱが朝日に揺れています。
「妖精たちは今日も張り切っているな」
親方は黄色く揺れる葉っぱを見ながらそっと呟きました。
そうです。森の葉っぱを秋の色に染めるのは、妖精の仕事です。
妖精たちは、森の中を飛び回り“季節”を伝えるのです。
秋の羽を背中に震わせて、金色の光りの中で飛びまわると、木々の葉っぱが色づくのです。そうして彼らは森中を飛び回り季節を伝えています。
冬には冬の羽で木々の根元に霜を降らせ、春には春の羽で飛びまわりながら、花々を咲かせるのです。
その妖精の羽を作っているのが、この工場なのです。とても大切な仕事です。
今は秋。
妖精たちはとても張り切って森中の葉っぱを赤や黄色に染めているのです。
ですから、秋の羽はもうみんな妖精に渡してしまいました。今、この工場で作っているのは冬の羽です。
親方は2階に干してある、ポンが組み立てた羽をいくつか持つと3階に行きました。
お湯を沸かし、キラキラと輝く染料を準備します。そうしてゆっくりとその羽を冬の色に染めていくのです。
冬の色は白だけに見えますが、淡く優しいクリーム色の中にキラキラと光る銀色が散りばめられているようで、一度染を入れただけでもとても美しく輝くのです。
それを何度か繰り返して、仕上げていきます。
どの季節の羽もそれは素敵ですが、親方は冬の羽が一番美しいと思っていました。
さて、1階ではポンがピノに、新しい作業を教えていました。
前の日の続きです。
「今日は、昨日の続きをやろう。この部品のここを引き寄せる作業だよ」
「うん」
前の日に少しだけ習ったところですが、昨日はうまくできなかったところです。
「やってみせるから、よく見てね」
ポンは部品を持つと、小さなツマミを引いて、反対の手で押さえながらゆっくりとそれを片側に寄せました。いとも簡単にやってのけました。
「わかった? じゃ、やってごらん」
「うん」
ピノも今見たのと同じ動作をしようと手を動かします。
「うーん、こうやって……」
「そこ、左手で押さえて、もっと指先で、そうそう」
「うーん、うーん」
「あっ、そっちじゃないよ。そっ」
「うーん、うーん」
ピノはいくらやってもなかなかうまくできません。顔を真っ赤にして頑張っていますが、できないものはできないのです。
「手順はわかる? もう一度やるから見ていてごらん」
「うん」
ポンは根気よく、何度もお手本を見せてくれました。
ピノが頑張っているのですから、怒ったりしません。一緒に、どうしたらできるかを考えてくれました。
それでも午前中、ピノにはできるようになりませんでした。
「疲れただろう? 午後は、羽根布を織っておいてくれるかい?」
「はあーい」
ポンにそう言われて、ピノは頷きました。
それくらい集中して作業を覚えても、できないのですから、午後は慣れた仕事だと聞いてホッとしました。
そうして午後は羽根布を織り、夕方もう一度新しい作業を練習しました。
それでもその日には、まだできるようにはなりませんでした。ポンのように上手ではなくても、ある程度できるように、というレベルにも達しませんでした。作業そのものがちゃんとできないのです。
ピノの根気が試されますが、ピノは一生懸命に取り組みました。
外が暗くなり始めると、その日の作業は終わり、また親方が鍵を閉めて、みんなは家に帰りました。