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僕の薬庫は異世界に続く  作者: 刀綱一實
残酷な神の手
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ツンデレピンク

「ぴくー」

「これ、は」

「子供か……蜥蜴とかげ共の」


 あきらの膝くらいまでしかない蜥蜴だ。鱗もまだ完成しておらず、柔らかそうなつるつるした体に、小さなヒレがついている。


「ちょ、静かにして」

「ぴくっく」


 なんとかあっちへ行ってくれ、と手を振るが幼体は晶にまとわりついている。


 そしてついに、恐れていた事態が起きてしまった。


「グルル……」


 大人の蜥蜴が、ついに目を覚ます。そしてじっと、晶たちを見つめた。その瞳に、友好的な色はない。


 違うんです。追ってきたのは、お宅のお子さんのほうなんです──と、蜥蜴に理解してもらうにはどうしたらいいのだ。


「グオオオッ!!」

「晶、陣まで走れ!」


 成体が吠えるのと、なぎが叫ぶのがほぼ同時だった。晶は振り返るが、すでにそこにも蜥蜴がいる。


「凪、だめだ。仲間を呼ばれた!」


 こうなると、行けるところは一つしかない。


「まだ前方の方が少ない。屋敷まで走れ!!」


 師弟二人で、天然の岩のトンネルをくぐる。完全に戦闘態勢に入った蜥蜴たちが、うなり声をあげた。


 凪が先を走る。


「フグゥッ!!」


 凪めがけて、一体が接近してきた。まだ大人の半分しかない未成熟体だが、スピードは十分だ。


 若い蜥蜴は長い尾を回し、それを凪に向かって放つ。


「うおっ!」


 凪はギリギリのところでそれをかわす。大人蜥蜴よりリーチが短いのが幸いした。


 地面に転がる凪。そのまま足を引き、蜥蜴の喉元を狙って蹴りを放った。


「いてっ!」


 しかし、ダメージを受けたのは凪の方だった。彼はすぐに攻撃を諦め、逃げに転じる。だが、囲まれていた。


 晶は手近な岩柱に登り、ナイフを投げた。


(当たって!)


 二本は外れたが、三番目で蜥蜴の目付近に命中した。巨体が転び、周りを巻き込む。


 凪はその隙に、ありったけの腕力を使って晶のところまで登ってきた。


(これでしばらくはしのげ……いや、無理だ!)


 晶はまだ脈打つ心臓に、もう一度鞭をうった。蜥蜴たちが、岩柱へ体当たりを始めたのだ。


 もろい岩は、たちまち嫌な音をたててきしみ始める。二人はそろって全力疾走を始めた。


「あいつら、賢いよ!」

「おまけに何だ、あの動きの速さは!」


 凪がぼやくのも無理はない。地図で見た時はどの個体もカタツムリのようにのたのた腹を引きずっていたのに、今日はどいつもこいつも陸上選手のようにダッシュしてくる。


「話が違うぞ-!!」

「そうだ、ズルいぞお前ら!!」


 晶たちは逃げ続けた。しかし、とうとう飛び移れる岩すらないところまで追いつめられてしまう。投げるナイフも底をついた。


「晶、口塞げ!」


 次の瞬間、目の前が真っ白になった。


「こっちへ来い!」


 煙の中から、凪の手が見える。晶はそれを頼りに、岩のくぼみをつたって降りていく。


 ようやく晶の足が地面についた時、どうっと強い風が吹いた。煙が晴れ、蜥蜴たちが見えてくる。


 また全速力で走る。後ろから聞こえてくるのは、足音ではなく地響きだ。止まったら殺されると、本能が告げてくる。


「晶、こっちだ!」


 赤い岩が終わり、黒い大きな岩が互い違いに交叉している部分。そこに凪が飛びこんだ。晶も隙間に体をねじこむ。


 岩に蜥蜴たちがぶつかり、ずしんと大きな音をたてた。しかしここの岩は頑丈で、蜥蜴の攻撃にはびくともしなかった。


(やっと休める)


 安心した途端、途端に晶の両足が重くなった。


「はあ……」


 ため息とともに、晶はへたりこむ。凪はうまくいったなあ、と言いながら荷物を整理していた。もうすっかり、気持ちが切り替わっている。


「凪ってさ」

「ん?」

「今まで、何してたの?」


 たいていの大人が嫌がるような事態でも、凪はさっさと適応してしまう。それをすごいとか、頼もしいとか言う人もいるだろう。しかし晶は、危うさも感じるのだ。


 恐怖は人間に備えられた、大事なブレーキの一つである。凪はそれが、どこか壊れているようなところがある。


「ねえ」

「うるせえ。そんなに大層なことはしてねえよ。子供の頃に、変わった家で育ったってだけだ」


 凪はそう言って、固く口をつぐむ。なだめてもすかしても、これ以上は聞き出せそうになかった。


(子供時代、ね)


 生まれた時から凪だったように見えるが、このオッサンにも幼児期はあるのだ。


「にやつく暇があったら、あの屋敷に侵入する方法を考えろ」

「侵入? 人の家に、物騒なことしてくれるじゃない」


 凪のすぐ横で、女の子の声がした。晶は声の主を確かめようとして、絶句する。


「君……それ、何?」


 体つきやまとっている衣服から、少女であるということは分かった。しかし肝心の顔に、巨大な鉱石がかぶさっている。頭のバンドで固定されているが、それで動いて大丈夫かと聞きたくなるルックスだった。


 その上、彼女の髪は街にあった鉢と同じような真っピンク。これは生まれつきなのだろうか。


「これ? ないと見えないのよ、悪い!? フンッ」


 少女は気を悪くして、横を向いてしまった。


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