表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の薬庫は異世界に続く  作者: 刀綱一實
残酷な神の手
67/110

これで、終わり?

 長身の兵は口をへの字にした。


「お偉いさんからのご指名を断ったのか?」


 異世界、人権はないが男色は普通にあるようだ。


「いや──」

「それなら、まだ良かったんだけどな」


 いきなりなぎが、会話に参加する。かわいそうに、兵士たちは完全にのまれてしまった。


「それなら受けといて、相手が素っ裸になったところで金的かまして逃げられた。あの野郎、隙がねえったら」


 まだ口がきけない兵士たちと違い、凪は絶好調だ。


「俺は元々、化粧品や食品を売ってた。そのおかげで、基礎医術くらいならわかるのさ」


 凪は格子ぎりぎりまで近づいて、兵をにらむ。そして大きく両手を広げた。


「もちろん独学だ。しかし、俺が天才かつ美しすぎたせいで、試した奴の症状が改善していった」

「美しすぎたのくだり、必要?」


 あきらのつっこみは、凪に届かなかった。


「その評判を聞きつけたのが、ここの王様だ。俺を呼びつけて、開口一番こう抜かしやがった。『息子の病を治せ。それまでは決して城から出さん』とな」


 長身の兵士と同時に、晶も驚いた。


「本当に無実の罪だったなんて……」

「お主、優しそうに見えて結構ひどい男じゃの」


 背後からカタリナが刺してきた。晶は彼女をねめつける。


「……全部知ってた、よね。この状況」

「当然よ。世界の番人に知らぬことなどない」


 カタリナは胸を張る。


 彼女の言っていることは、妄想でも誇張でもない。カタリナは世界の秩序を守るべく任命された「番人」であり、晶や凪のような世界をまたぐ連中を監視するのが仕事だ。


 晶にだって分かっている。理を乱しているのは自分たちの方で、カタリナが助ける道理などない。しかし、もたげてくる被害者意識は確かにあった。


(いや、ダメだ)


 その思いを口に出さぬよう、歯を食いしばる。とにかく一度、凪に会って対策を考えなくては。


「でも、地図が……」


 店は閑古鳥が鳴いているのでどうにでもなるが、困るのは「地図」の管理だ。放置していて盗まれたら、目も当てられない。


 迷った末、晶は階下の初穂はつほに声をかけた。


「初穂さん……」

「ああ、坊やか。なに?」

「凪が危ないんです。事情を説明させてください」


 初穂はそれを聞くと、じっと晶の目を見つめる。品定めは、たっぷり一分ほど続いた。


「……やっぱり、辰巳たつみ先輩の息子だわ。言い出したら聞きゃしない」


 にらみ合いに終止符をうったのは、初穂だった。晶は言い返す言葉もなく、黙ってうなだれる。


「はい、じゃあさっさと本題に入って」


 初穂に促されるまま、晶は全てを打ち明けた。初めは馬鹿馬鹿しい、と相手にしなかった初穂も、地図を見せると徐々に異世界に引き込まれていった。子供のように目を輝かせる初穂を見ていると、晶も少し気持ちが和む。


「うわー、凪の奴マジで捕まってんじゃん。待って待って、写真撮ってネタにするから」


 その写真、何に使うつもりですか?


「……写真は構いませんから、この地図の保管をお願いしたいんです。もし僕が戻らず店から帰るときは、クローゼットにしまって鍵を」

「この店、前に放火されたじゃないの。夜は持って帰るわよ」

「え」

「これでもインテリアデザイナーですからね。資料ってことにすれば家族も怪しまないでしょ。凪が帰ってくるまで、仕事はここでするから店番もやるわ」


 流石フリーランスで稼いでいるだけあって、飲み込みが早い。晶はありがたく、その案を受け入れることにした。


 きっちり現地風の衣装を身につけ、時計など電子機器は全て外す。そして隠してあった長剣を持てば、準備完了だ。


「じゃ、行ってきます」

「はいはい」


 初穂は熱心にシャッターを切っている。仕事は進むのだろうか、と晶は心配になった。



☆☆☆



 晶は目を開き、軽い頭痛がおさまるまで待った。何度か異世界に来ているが、最初の時に見た化け物は現れない。


(あれは、なんだったんだろう)


 首を振って、魔方陣を抜け出す。会わないなら、それに越したことはないのだが。


 光る陣の先は、闇が広がっていた。格子と、囚人たちがぼんやり見える。牢獄なので魔力よけがしてあるかと思ったが、すんなり入り込めたようだ。内部に見回りもいないので、作戦成功である。


「……まあ、この人は」


 目の前に凪がいる。囚われているというのに、彼はいびきをかいて寝ていた。本当に殺しても死にそうにない。


「起きて、凪」


 魔方陣の光が見つかったら終わりだ。半寝ぼけの凪を無理矢理立たせ、一緒に陣の中へ飛びこんだ。


 こうして二人、無事に現実世界へ帰ってきた。初穂が眉間に皺を寄せて、出迎えてくれる。


「なによ。留守番頼んだくせに、すぐじゃない」

「すみません。もっと苦労するかと思ったんですが」

「んあー……あ?」


 凪はぼんやりしていたが、初穂の顔を見ると途端にしゃきっとした。


「お前、来てたのか」

「自分で呼んで何よそれは。薄情者。割増料金とるわよ」

「その手のカメラを渡したら考えてもいい」


 しばらく凪と初穂は、激しい攻防をくり広げた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ