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僕の薬庫は異世界に続く  作者: 刀綱一實
残酷な神の手
100/110

日常との両立

 あきらが言うと、パーチェの頬にさっと赤みがさした。


「なれると思う?」

「うん」

「その性格を直せばな」

「ナギは黙ってて」


 馬は街道を進む。その道中、パーチェがずっと楽しそうだったのが救いだった。


(あいつ……だろうな、犯人)


 それでも晶の中では、ずっと怒りの炎がくすぶり続けている。



☆☆☆



 幸い、道中で刺客に合うことはなかった。一行が村にさしかかると、門のところで待っていたラクリマが手をあげる。彼の回りには、明らかに手練れと分かる男たちがたむろしていた。


「大変な目に遭われましたな」

「……むしろ、これからが本番かもしれんが」


 ラクリマとなぎの視線が、空中でぶつかった。


「旦那様も同じようなことをおっしゃっておられました。これはまだ、内密に願いたいのですが」


 ラクリマは声をひそめる。


「彼女を国外に出した方がいいのでは、という話に」

「行き先は?」

「ナギ様がおっしゃっておられたオットー様と、すでに話がついております」

「なら、そうしてくれ。俺も動くが、八方うまく納める自信はない」

「ご武運を」


 凪は不穏なことを言いながら、パーチェをラクリマに託す。ここまでついてきた親子蜥蜴も、ついでに引き受けてもらった。


 二人きりになってから、早馬を飛ばして来た道を戻った。焼け落ちた木々が見えてきて、火勢の激しさを物語る。時々転がっている黒焦げの死体は、努めて見ないようにした。


 魔方陣は、幸い無事だった。変わらず、黄金の輝きを保っている。


「あ、黒猫」


 そして陣の側で、賢人が香箱座りをしていた。晶たちが近づくと、彼は大あくびをする。


「てめえ、いい度胸だな」

「ストップ」


 殴りかかろうとする凪を、晶は止める。


「助けにも来ず、どこで何してやがった」

「君たちのことは見てたけどねえ。風で火は消せないから」

「で、罪滅ぼしにお迎えってか?」

「それもあるね──でも、本題は別」


 黒猫は重々しく言葉を切る。彼の目が、きらっと光った。


「ここまでことを大きくして、ちゃんと自分で幕引きができるのかい」

「問題ない」

「うまくいけばの話だろう」

「いかせるさ」


 凪と黒猫は、禅問答のような問いかけをする。二人はしばらく、そのままの姿勢でにらみあった。


「……なら、君に任せるか」


 先に折れたのは、黒猫だった。


「おう。猫は猫らしく、とっととそこからどけ。晶が帰れないだろ」

「凪は一緒に来ないの?」


 晶が聞くと、凪は固い表情のままうなずいた。


「晶。近いうちに戻る。それまでの間、できるだけパーチェの様子に気をつけてくれ」

「分かった。そっちも気をつけて」


 凪が魔方陣から離れ、手近な石に腰掛ける。その姿は、誰かを待っているようだった。


「万が一俺に何かあったら、美形で慎み深く高潔、しかし金儲けはうまい男だったと触れ回るんだぞ」

「分かった。美形で欲深くゲスい、借金だらけの店主のことは忘れないよ」

「あっ、てめえ」


 凪に捕まえられる前に、晶はその場を逃げ出した。


 店に戻るとすぐ、晶はスマホに飛びつく。案の定、連絡に使っているアプリにメッセージが溢れていた。


「うわ」


 晶はその作業に追われ、凪の謎の問答について考えるのを忘れてしまった。



☆☆☆



 一晩寝て頭がすっきりすると、晶は考えた。できることならずっとパーチェの様子を見ていたいが、地図は大きすぎて学校に持って行けない。一度折りたためないかと挑戦したら、黒猫が見たこともない顔になったので諦めた。


(となると……あ、そうだ)


 晶は学校に遅刻の連絡を入れてから、自転車に飛び乗った。


「あら、坊や。いらっしゃい」


 福の神のような顔で萩井はぎいが出迎えてくれる。アポもとっていないのに、寛大な対処を受けて晶は感激した。


「で、凪は? くたばったの?」


 外見と言うことのギャップがひどい。凪と馬が合うだけのことはある。


「生きてますよ、まだ」

「そのちょっと含みを持たせた言い方……期待できるわね」

「…………」

「で、今日は何の用? 制服のまま来るなんて、よっぽど急ぎなのかしら」


 萩井が腰に手を当てた瞬間、背後でフラッシュがきらめいた。晶はすかさず、そちらに向かう。


「すみません、買い物に付き合ってほしいんですが」


 びちびちと逃げる池亀いけがめを、晶は両手でしっかり捕まえる。


「ええー、買い物なんてネットでしかしないし」

「カメラが欲しいんです」


 晶が言うやいなや、池亀の目つきが変わった。


「それは素晴らしい。さあすぐ行こうやれ行こうもっと行こう」

「あの、萩井さんの許可は……」


 池亀は晶の腕をひっつかみ、出口へ引きずっていく。萩井が苦笑いしているのが、ちらっと見えた。


 電気街に着いても、池亀ははしゃいでいた。彼をなんとかなだめすかし、固定できる小型のカメラを選んでもらう。もちろん、スマホ連動のものだ。後で凪にいくらか補填してもらおう。


 そして彼はまだ店にいたいと言うので現地で別れ、晶は初穂の家へ向かう。地図の上にカメラをセットしていく晶を、初穂は怪訝な顔で見ていた。


 下準備が終わると、晶は一直線に学校まで自転車を飛ばした。


「火神」

「元気そうじゃん」


 中途半端な時間に登場した晶を見て、ざわめきが起こった。


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