参戦と契約と…
俺とジョンが撤退を始め、 先輩の居る戦車の元に向かう途中のところ…
「加藤、 そういえば珍しい原住民とは何だろうな」
自動拳銃を構え周囲を警戒しながら、 ジョンは『珍しい原住民』について質問をしてきた。 だが、 その質問に出てくる『珍しい原住民』は誰なのか俺も分からない事だった。
「さあな、 だけど一つは分かることがある」
「なんだ?」
俺はナイフを構えながら周囲を警戒し、 ジョンに教えた。
「先輩の口振り的にそれは、 少なくとも俺らに手は出さず交友的にはしてくれる奴等だろうなということかな」
「へぇ、 T-34-76の車内ってこうなってたんだ。 チャーチルの方が乗り心地が良いってのがよくわかるよ」
「流石に乗り心地はチャーチルに負けるでしょうね。 だけどこの子は、 我が会社の最新技術を取り込んでいるから、 チャーチルどころかセンチュリオン程度にだってやられはしないわ」
俺らが戦車の車内に戻ると、 車内には先輩と『珍しい原住民』だろう金髪の耳が特徴的な少年は、『流暢な日本語』で仲良く話し合っていた。 因みに銃座と操縦席は先輩達に占領されている為、 砲塔内で待機した。 あと、 移動出来そうにないようなので主砲の砲弾を装填して周りを警戒する事にした。
「話戻すけど、 僕らの秘密基地に来なよ。 見つかったら危ないでしょ?」
「そうだね、 お言葉に甘えて行かせてもらいましょうか。 アーチャーお願い」
「あ、 ああ…」
先輩はそういうと操縦席から立ち上がり、 俺の居た場所と交代し、 移動を開始した。
こっちだと言われ、 元道だったところを進み続ける。 周りは木が生い茂っており結構車幅ギリギリで、 元道だった事もあり道はボコボコとしていた。 あと、 その元道自体、 ただ土を固めただけのものである為、 雨が降ったらぬかるみそうだ。
だけど、 俺らが乗っているのは戦車だ。 鉄製の履帯を無理矢理回転させ、 重い車体を前に動かす。車のタイヤのようにパンクする事もなければ、 厳しいオフロードな道も無限軌道である戦車ならば突破出来る。 まぁ普通の戦車は、 車とは違い何十キロも走れば足回りの修理が必要なのはあれだが… はぁ、 自動砲システムを搭載した装甲車の方が異世界ものだと良いのかな…
そういえば、 後付けの牽引式の荷台は大丈夫だろうか? 後で見ておかねば…
話を戻し、 俺たちが乗る車両は森を抜け、 崖の下に着いた。 因みに道は崖に向かって伸びていた。
「此処だよ」
「崖の下、 か…」
俺は思わずそう口にした。 きっと崖の下の何処かに隠し扉があるのだろう。
「ちょっと待ってて」
彼はそういうと、 ハッチから車内から出て崖の下の岩を触り始めた。 すると、 崖の方ではなく道に傾斜が出来始めて崖の下を通るようになっていた。
「どうぞ」
「あ、そっちなのね」
思っていた事と違った為、 俺は思わず、 そう声に出した。
少年の指示に従い、 暗いトンネルの中をヘッドライトを点けて車体を走らせると、 すぐに光源のある部屋に着いた。
後付けの外を見る為のモニターに映し出された物は、 地下に広がる基地と言って正しいものだった。 岩がむき出しで、 天井には先程戦った敵よりも技術力が高いと証明できるライトが着いており、 あと高さもなかなかあって、 床は流石にコンクリートだが目線を変えると港の様にもなっていた。だけど、 そんな事より一際目立つ物があった。それは…
「!!!!」
突然、 中年の男性の様な声がこの部屋を響き渡らせた。 その声は、 覚えさせられた民族の言葉とは似ても似つかない言葉だ。
後付けで付けられたモニターのコントローラーを使い、 その音源を探すとAKの様な形のアサルトライフルを持った黒髪短髪の中年の男性に見える男が左側にある違うトンネルの入り口にいた。
「!?!?・・・」
少年はAK?を持った彼にこの事を説明する為に、 走って行くも…
この部屋に通じる全てのトンネルから、 年齢も性別も人種も関係ない人達が現れ、 俺達が乗る車体の周りを囲い、 AK? で威嚇し始めた。 因みに、 そのAKは銃口の下に銃剣を取り付けられている。 少なくとも、 純正ではなさそうだ。
「よく出来た兵士だこと…」
先輩は俺の横でそう呟いた…
少年から警戒を解除してもらい、 俺達は会議室の様な部屋に連れて来られた。
因みに、 一応自身の身を守る為に、 俺は大日本帝国製の機関短銃と米国製のリボルバーを1丁ずつ、 あとナイフを一本装備し、 先輩は超小型のサブマシンガンと自動拳銃にしては特徴的な形を持つドイツ製の拳銃を一丁ずつを装備した。 あとジョンに関しては、 いつも通りの自動式狙撃銃と自動拳銃を装備した。
…ジョンは室内戦でも狙撃銃を使うのだろうか?
「武装しなくても良いんだけどね… まぁいいか。
…あ、 椅子に座って良いよ」
「かたじけない」
椅子に、 座る事にする。 だけど、 俺達は椅子にも警戒の目を向けていた。 何をされるかわからない、 まだ相手を信用出来てないというところが本心であるからだろう。
「さて、 まず自己紹介。 僕はマウザァ、 この島で暮らしていたエルフの生き残り… と言いたいけど、 僕は日本人の転生者だよ」
「やっぱりね」
『転生者』という言葉を聞いて、 先輩は初めから分かっていたかのように、 返事を返した。
ジョンは日本語がわからない為、 首を傾げている。
で、 俺自身は、 ラノベかな? と思っていた。
「今は反乱軍のリーダーをさせて貰ってるよ。 あと、 僕は製造、 量産、 単独操作などを使える特殊能力者でもあるよ。 因みに、 それらの能力を簡単に解説すれば、
『素材と魔力を引き換えに兵器を作り、 素材と魔力を使ってそれらの兵器を量産、 あと大人数で操作する必要がある兵器は魔力を使って単独で操作する事が出来る』という感じかな?」
「羨ましい事…」
「異世界モノか…」
特殊能力… 羨ましいモノではあるが、 これに合わせて『ハーレム』なんてものを築き上げ始めたら、 個人的には妬ましいモノになるな…
だけど、 ジョンは日本語がわからない為、 巨体に似合わず首を傾げ続けている。 あとで翻訳しよ。
「私ね、あえて名前は言わないけど、 社内で周りからジャンヌと呼ばれているわ。 主な戦闘スタイルは中距離支援と接近戦、 あとは剣術と短刀術も得意だよ。 私からは以上ね、 弓兵さんよろしく」
「(あ、 次は俺なのね)俺もあえて名前は言わないけど、 弓を使った戦闘もする為、 皆からアーチャーと呼ばれてる。 主な戦闘スタイルは、 銃によっては戦闘スタイルを変える為、 基本的な事は一通り出来る。 あと、 戦車や小型飛行機程度なら操作はできる。 俺からも以上だ」
先輩と俺の自己紹介は終わった。 さて、 問題はジョンだよな… 英語は話せていたが、 日本語は分かっていなかったぽいからな…
とりあえず英語がわかるか聞いてみるか…
「話変えるけど、 君は英語わかる?」
「大丈夫だよ。 翻訳機能という、相手の言語を理解する能力があるから」
「羨ましい事だ…」
レンジャーに入隊してから約2年、 ようやく原住民族の言葉や英語などの言語を理解できる様になった者からすれば、羨ましいと思えるのと同時に、 妬ましく感じてしまう自分がいた…
(ここから『』の中に入っている言葉は、 本来は英語ですが、 翻訳して日本語にしております)
『ジョン、 自己紹介だと』
『…ああ、 分かった』
ジョンに簡単に英語で、 自己紹介だと答えると、 何も顔色を変えずに自己紹介を始めた。
『俺の名はジョン、 後方支援型の唯の狙撃手だ』
『へぇ、 そう… じゃあ自己紹介はこれで終了かな?』
『ああ』
ジョンの自己紹介は、 俺や先輩よりも早く終わった。 まぁ、 あまり知らない相手に、 情報は隠していた方が良いので、 寧ろそうすればよかったと内心思った。
「突然だけど質問して良いかしら?」
「良いよ」
先輩は相手から、 情報を聞き始めた。 きっと『ここはどこなのか』や『あの敵は一体何?』という事を聞くだろう。
「貴方方の兵力はどのくらいあるの? あと、 あの敵はどの様な武装で、 どの様な兵装をしているのかしら?」
俺の予想は半分はあってはいた。 だが、 半分は間違えていた… まぁその事はどうでも良い事なのだが…
「僕達の兵力ね… だけどその前にちょっとした授業を行って良いかな?」
「まぁ良いけど… 何の授業かしら?」
「地理と近代史だよ」
マウザァはそう答えると、 座っていた椅子から離れ、 歩みながら部屋から出た。 そして、 マウザァは何冊かの書物を持ちながら、 この部屋へ戻って来て再び席に着いた。
「僕が翻訳・解説をしながら読むよ」
そう言うと、 マウザァは持ってきた書物をページを開いて広げていった。
「まずは地理からだよ
この地図を見てほしい、 君達からしたら唯の古い地図だろうけど、 大国以外では一般的な地図だよ」
マウザァは持ってきたいくつかの書物の中から、 一冊だけ取り出しページをめくって、 とある海域の地図を見せた。
その地図には、 いくつもの大小の島々が書き出されており、 その島々を挟む様に、 両端には島というより大陸っぽい陸地が書かれていた。
「で、 今僕達が居る所はここね」
マウザァは、 その地図の若干左側中央にある小さな島に指をさした。
「俺達はアフリカの内陸部から、 海が広がる島々に転移か…」
「まぁただ暑いよりは良いんじゃないの?」
まぁ、 そうなのだが…
てか先輩… 帰る手段がないという事は、 俺にとってはとんでもない事なのだが…
「この島の事は、 後で説明するとして…
次は、 簡単な近代史を言わせて貰うよ。
今、 この近海では二つの大国同士が、 訳あって対立をしているんだ…」
対立ね…
俺からしたら、 今、 それどころではないのだけどさ…
「その対立をしている大国の一つは、
何十年も前に僕や君達が知らない世界から、 国ごと転移して来た“ストーンウォール国”という国だよ。
この国は、 この世界では珍しい国であって、 何んで珍しいのかと言うと、 魔法が主流であるこの世界で、 唯一全ての事を科学で賄っているらしい。
因みに、 政治は民主主義で、 この地図では左側にある1番大きな島がその国らしいよ。
で、 その国に対立している国は、 地図でいう右側にある2番目に大きな島だよ。
その国の名前は“マール王国”と言って、 名前の通り王政で、 帝国と同盟を結んでいる国だよ。 因みに、 帝国はこの地図でいう1番大きな島からが帝国の領土だよ。 あと、 王国も帝国もプライドが高い事で有名だったり…」
「で? その“石壁国”と“丸王国”は、 あの海賊の方々とどのような関係で?」
「まぁ簡単に言えば、 この島は元々はストーンウォール側の領土だったけど、 マール王国が海賊を雇ってこの島を占領させた。 こんな感じかな」
「へぇ、 じゃあ何故この島を占領したの?」
「それは僕でもわからない… だけど、 この島はの資源が目的かもしれない…」
「資源ね… 資源は何が取れる?」
「ん… 僕が調べた限りでは、 鉄鉱石とか金とかかな? あと、 この島の近海には石油やレアメタルも豊富にあるみたい」
「はぁ… 元いた世界の国々が知れば、 戦争を起こしそうだわ…」
先輩は質問をして行くうち、 資源の事で目眩を覚えていた。 確かに、 資源の量によっては、元いた世界の国々が戦争を起こすだろうし、 この世界でも資源を求めて領土争いが勃発する事はわかる。
だけど一つ疑問に感じたそれは…
「じゃあ何故、 “石壁国”側は領土奪還をしないの?」
「ああ… それね… 実はストーンウォール側の国が関わっているんだ…」
口に出す前に、 先輩が疑問に思っていた事を言っていた。 ところでだが、 3つ目の国か…
「で? その3つ目の国は?」
「三つ目の国…? ああ、 この地図で2番目に大きい島の西半分を領土とする『西ノース王国』という国の事だよ」
「『西北王国』ね。 因みにだけど何故、 その島は東西で別れているの?」
「それね、 まぁ一言で言えば主義の違いかな…
西半分は民主主義、 東半分は帝国主義という感じで…
だけど、 西も東もそれぞれの王が居るから、 西も東も王国だよ…
…話が、 脱線してしまったみたいだね。 話を戻すけど、 西ノース王国の皇女が捕虜として、 この島の敵基地に居るみたい…
予測だけど“攻めたら皇女がどうなっても良いのか?” という圧がかかっているのかも知れない…」
「へぇ、 だから貴方達は反乱を起こそうとしているの?」
「…いや、 僕の仲間は普通の生活に戻りたいと思ってるかも知れないね。
この島にも、 海岸沿いや森の中に町や村があったんだ。 だけど、 マール王国の軍やその軍が雇った海賊が攻めて来て…
一応、 自衛用の兵装は少なからずあったけど、 圧倒的な数に敵の練度か良くてね… それでこの島の全ての町は襲われ、 捕まった多くの人が捕虜となり、 今も幽閉されたり奴隷として扱われているらしいよ…
其れ等から逃げ切れた者も居るが… 彼等には怒りと憎しみに満ちて…
森で妹と暮らしていた僕は、 逃げて来た彼等を観て、 何か情が移ったのか、 仕方なくこの地下基地に住ませて、 僕は訳ありで使えないけど、 自己防衛出来るくらいの技術を教えてあげた… で、 その人達は自主的に偵察や狩、 あと味方になってくれる仲間を集め始めた… 連れて来た人達に、 僕は武器と戦闘技術を渡し、それで技術を学んだ者は、 狩や仲間集めなどをして連れてくる… そのループをし続けたら、 知らぬ間に3桁まで行っていたよ…
…まぁ、 今回の君達の場合は、 相手が君達が来るという事を知っていたのかも知られない…
理由だけど、 昨日の仲間の偵察で、 敵が不可解な行動をとっていたと報告が出ていたからね…」
「ふーん…そう… まぁ、 どちらにしろ攻撃されたからには、 彼等に報復させてあげるつもりだけどね。
ところで、 彼等の兵力は?」
「ああ、 兵力ね… え? 今何を…?」
「[彼等の兵力は?]」
「すみません、 それより前です」
「[彼等に報復させてあげるつもりだけどね]のところ?」
「はい、 そうです…
もしかして、僕達に協力をしてくださるのですか…?」
「報酬や弾薬などを貰えるのならね。 二人もそれなら条件を呑むでしょう?」
「あ、 ああ…『報酬や弾薬などを貰えるのなら、戦うと先輩は宣言したけどどうする?』」
『俺はどっちでもいい』
「あ、 ありがとうございます!!」
「… で? 敵戦力は?」
「あ… はい… 」
この後、 マウザァの話の脱線を何度も指摘しながら、 この交渉は終わった。
何度も話が脱線していた敵の兵力のについてだが…
・陸にいるの敵の兵力は大航海時代中盤くらいの武装で、少なくとも1000人以上はいるらしい。
・敵の海上戦力は見た感じだけだと大小さまざまな帆船が20隻ほどあるらしい… (見た感じだけ…?)
・あと、 一応空軍もあるらしく、 異世界物によく出るワイバーンに騎乗した兵士が20はいるらしい(因みにワイバーンは戦闘機というより戦闘ヘリみたいなものらしい)
…で、 こちら側の戦力は、
・アサルトライフルを所有する兵士が約100人
・軽機関銃持ちが10人
・狙撃手は10人程
・重機関銃3機に、射手と補助員を合わせて6人
・装甲車や補給車両、 非武装のトラックとロケット砲搭載車が3台ずつあり大体二人ずつ乗るようだ。
・三式中戦車の様な外見の戦車が3両あって、 一台4人ずつ乗車するらしい(現代の戦車の方がよくないか?)
・海上戦力の方は、 外見以外魔改造した重巡(青葉型かな?)が一隻のみ。 マウザァのみで操作するらしい… なんか凄いな…
・一応航空戦力もあるようで、 全て大戦時の日本の水上機の様な外見をしているのが3機ずつあるらしい…
大丈夫なのか…?
敵の海軍の方は、 仮定として1000以上はいるだろう。 だから敵は2000人以上はいる。 で、 肝心なこちらの戦力は200未満… つまり10分の1の差がある事になる…
本当に大丈夫なんだろうか… 俺はそう思いながら、 先輩達と共に部屋から出た。
「ネェ貴方達、 カワッタカタチの戦車ニ乗っているのネ」
部屋から出ると、 其処には一人の金髪の少女が立っており、 俺等は無視して通り過ぎようとすると、 突然前に立ち塞がり、 イントネーションなどが少々気になるが日本語で話しかけてきた。 ああ、 やっぱ日本語話せる人って居たんだ…
「で、 何が言いたいの?」
先輩は表情を変えず、 声を低くし質問をした。
「挨拶ネ。 アト… コレネ」
「ん…?」
先輩はその少女から、 一枚の白い封筒の様なものを渡された。 その封筒の表紙には『はたしじょう』と平仮名でバランス悪く書いており、 中身を取り出してみると、 全て平仮名で書いてられており、 内容を大雑把に訳すと、彼女は『戦車戦』をしたがっているようだった。
それを見た先輩は、 眉を潜め、 呆れという表情をした。
「貴方… 今はやめておきなさい…」
「ナンデ?」
「もうすぐ、 君達が動くからよ」
「…?」
先輩の言葉を、 彼女は理解出来なかったようで、 首を傾げ、 その場で考え始めた。 それを見た先輩は、 表情を元に戻し、 愛車を止めた場所に向けて足を進めた。 俺とジョンは先輩が進んで行く姿を観て、 ジョンは先輩の後を追った。
「………」
「…まぁアレだ、 俺らが勝利してから、 模擬戦でもしようか」
「…!」
…何故か、 心配になった俺は彼女に一声かけた。
突然話しかけられたせいか、 それを聞いて驚いている…
まぁいいか、 とっとと行こ。
「ま、 マッテ!」
足を動かそうとしたら、 左手首を掴まれる。思っていたより握力が強い、というか痛い。
「なんだよ!」
「名前…」
…たったそれだけかよ…
というか、逃げんから手を離してくれ…
「なんだ… 名前かよ… 俺の名前は加藤だ…」
「…カトウダ…?」
「違う違う、だの文字はいらん」
「…カトウ?」
「ああ、そうだ。そうだとも、用件は終わったから俺は行くぞ」
「マッテ!」
「!?」
俺は彼女の手を振り払い、先を急ごうとした。しかし、更に圧力が上がったと思えば、今度は俺の左腕に柔らかい感触までが伝わって来た。
今更だが、今掴んできている女性… 確か露出はさせていなかったが美形で豊満な…
いやいや、今はそんな事を考えて居る暇はない。
「な…なんだ…?」
「ワタシの名前は『セルガ』とイウノ…」
「それがどうした…?」
「今度からワタシの事を『セルガ』と呼ンデネ!
じゃあ、ワタシはコレで」
「あ、ああ… セルガさんまたな…」
セルガさんは自身の名前を俺に伝えると、俺の左腕を解放し、そのまま会議室方面の廊下を走って行った…
…俺の左腕には、あの感触がまだ残っていた… しばらく、その感触は残りそうだ…
「ところで加藤? さっきのは何?」
「俺は何も悪くない」
セルガさんから解放され、ようやく愛車のもとに辿り着いたと思ったら、先輩が既にスタンバイしており、(悪質な)笑みを浮かべならがら、こちらに質問をした。
…先輩はいつから見ていたんだ…?
「ふーん… 君ってああいうタイプの子が好きなんだ…」
「違う、あれはただ、強引に掴まれただけで…」
「ふーん… その割に呼吸が乱れていたわよ?」
「仕方ないんです、妹にさえされた事がない行動をされて… 悲しいけど男の使命が発動したんです…」
「そう… じゃあ、私が彼女がとった行動をしたら興奮する?」
「少なくとも初めは興奮すると思いますよ?」
「初めは… で?その後は?まさか私の胸を見て『あ…残念な』と言って冷めるんじゃないでしょうね…?」
「俺とかサイズを気にしない人達なら、きっとそうだとは思わないはずです」
「そう…じゃあ試してあげる!」
「ちょ!まっt!……」
俺を使って強制的に、先輩がさっきのシーンを(格闘術で)再現し始めた…
…今回の心情だが、一つ分かった事がある。それは、戦闘の師に勝てる訳がないという事だ…
「………寝れねぇ…」
時間は大分過ぎ、深夜ぐらいだろうか…?
先輩もジョンも音を立てずに寝て居る中… 俺だけ目が覚めていた…
この時間、いつもなら車内で寝ているはずだが、今回ばかりは何故か目が覚めて眠れなかった。なので、睡魔に襲われるまでこの基地を探索してみようと思い、懐中電灯と護身用のリボルバーとそのリボルバー用の回転弾倉を2個用意し探索に出ることにした。
先輩… これは俺の好奇心だ、だから居ないからって気にするなよ…
…廊下は電灯を消されている為、視野は黒色に染まって居る…
俺は懐中電灯使い前方を照らした。ここの廊下はただ長かった記憶がある… 廊下の奥の方に懐中電灯を照らしても、奥までは届かなかった。
そんな事はどうでも良い、とっとと前に進むか…
廊下をただ真っ直ぐに突き進んでいると、一つ弱々しい光源を発見した。俺はそこまでの道に、障害物が無いかを確認し、懐中電灯を消して好奇心に満たしながら、慎重に足を進めた。
光源の下に辿り着くと、俺は背を壁に付け、相手から角度的に見えない様に死角を取り、光源が洩れている部分からそっと部屋の状況を見た。
…聞き耳を立てるが、相手からの声は聞こえてこない。聞こえて来る音と言えば、何かの重機が動いている事ぐらいだろうか…?
「アーチャー? 君は何をしているんだい?」
「!?」
重機の音が止まると、その部屋の中から聞いた事のある声が外に居る俺に問い掛けてきた。
というか、普通にバレていた。何故か…あ、隠しカメラか…
「フフ、好奇心か…」
「わ、笑うな!」
俺はマウザァにあっさりと見つかり、その光源の部屋の中で、茶を戴く事になった。あと、理由として好奇心で此処まで来たと答えると軽く笑われた。当然なのか分からないが、恥ずかしさで顔が赤色に染まっているのかも知れない…
そう言えば… この部屋も随分と広いな… 高さや幅自体も充分にあるし、長さだけで言えばレシプロやプロペラ機なら離着陸は出来るぞ…
気になる… 取り敢えず聞いてみるか…
「所で… この部屋は、何の為の部屋なんだ?」
「滑走路だよ」
「ああ…やっぱり…」
やっぱり、滑走路で正解だった。
「最近は飛ばしてはいないけどね…」
「まぁ、こんな状況じゃ乗れないからな…」
確かに、反乱軍のリーダーもいれば、兵器作りもやって居る… リーダーとしては此処に残っておくべきだろうし、兵器作りも時間がかかるという…
今は乗れないよな…
「…ところでだけど、僕が乗っていた機体観る?」
「え?良いのか?」
「なんなら、今直ぐに持って来るけど…」
「ああ、すまない… 見せてくれないか…?」
うん… やっぱり好奇心には負けた。
「え〜と… この機体は何?」
「『ju-87』だけど…」
「やっぱりそうか… 見ただけでも何となく判るが、元の機体をかなり改造して居るな…」
あくまで予想だが…
「うん、それなりに改造したよ…
まず、7.62mm機銃3機だったのを12.7mm機銃3機に置き換えて…
次にエンジンを載せ替えたよ… 最高速度は大体450kmぐらいは出るかな…?
…あと、機体に使われている素材も変えて、多少は軽量化に成功したよ…
…着陸脚は固定式から引き込み式にして、風の抵抗を減らし、機動性を上げて…
…爆装意外にも、増槽タンクに偵察用カメラ、ロケットランチャーに誘導爆弾を搭載出来る様にし…
…肝心なコックピットも、電子化などを行い少々性能を上げたよ…」
やっぱり改造していたか…
「へぇ、性能だけ観れば、大幅にパワーアップしているな…」
「性能は上がったよ… だけど、その分制御するのが難しくなった…
まぁ、航空機自体操作した事がなかったし、いきなりこれに載るのはダメだったね…」
「そうか…」
確かに、作った本人でも完璧に操作できる訳ではないからな…
そう言えば、なんでここに彼が居るんだ…? 取り敢えず聞いてみるか…
「… で、この機体はどうするんだ?」
「…近いうちに解体するつもりだよ…
なんて言って燃料以外の資源が危なくなりそうだから、ju-87を解体して少しでも資源を維持しようかと…」
「そうか…」
燃料以外はか… つまり、まだ燃料はあるのか… なら話を聞いてくれるか…?
「…突然だが…良いか?」
「何?」
「一度、この機体を操作させてくれないか…?」