結局、一番残忍で残酷なのは、人間かもしれない 〇月14日(昼)#2
※翠木さんの一人称を 私から僕に変更
どうも雪月花です!毎回お読みいただきありがとうございます!
空気を吸い込む事すら忘れる程、慎重に階段を上がり切り、音がしない一番手前の病室を覗き込み…思はず口元左手で覆った。下はゾンビが徘徊していた、それは間違いない。死体もあったし、血痕もあった。だけど…
「…ここが最後の場所だったんだ」
病室の入り口付近には、頑丈そうな木の板やパイプ椅子、テーブルやベッドが散乱していた。必死に抵抗した後だろう、噛み付かれ、引き裂かれ。痛みで暴れる様に振り払おうとしても数には勝てない…損傷の激しい死体の周りには消火斧や角材が転がっていた
「…っ」
部屋から逃げ出す様に廊下に出れば、先程の光景を忘れる様に首を左右に振るう。そう、これが今の世界なんだ。忘れてはいけない、次にああなるのは私かもしれないのだから…
「…あっちだね」
音源は恐らくゾンビだろう。もしも生存者が居たとしても感染している可能性がある。その場合…私が一番したくない事をする事になる。廊下をゆっくりと進み、音のする場所。女子トイレの様だ…そっと覗き込むと、やはりと言うべきか、一番奥の個室に三体のゾンビが叩いたり頭突きを繰り返していた
「…」
私はゾンビに気が付かれない様に入り口で伏せると個室の下、わずかな隙間を見る、靴だ。学生が履く革靴が震えているのが見える
「…よし…」
斧をリュックサックにぶら下げ、クロスボウを展開する。腰に付いている矢筒からアルミ矢をクロスボウに一本装填すれば慎重に息を整えてゾンビの頭を狙う…
ヒュッ! ドシュッ!
空を切る音を鳴らしながら矢は一番近いゾンビの左の蟀谷に吸い込まれるように命中した、頭を横から貫通し、ゾンビは床に倒れ動かなくなる、それを後、二回繰り返し。ゾンビを無力化した
「もう動かないよね…?」
死体の頭を射抜けば動かなくなる、その原理は分からないがラジオからの情報だ。ボールペンやフォークでも出来るらしい。恐る恐る、斧でゾンビをつつきながら、念の為と首を跳ねる。作業を終えて、はっと個室の事を思い出す
「…誰かいるの?ゾンビはもういないよ?」
心拍数を急上昇させながら扉越しに出来る限り優しく声を掛けると鍵を開ける音が聞こえた、扉が開くと目元を真っ赤にし、衰弱した様子の赤茶色のロングヘアーが特徴的な女の子が居た、その子は私を見ると目から涙を溢れさせながら見つめて来る。…まずいっ!
「っっ?!」
「しっ…貴女に乱暴はしない。約束する。だけど声を上げて泣かないでっ」
この子には申し訳ないけど、口を右手で抑え。左手の人差し指を自分の唇に当てながら囁くと、こくこくっと何度も頷いて見せた
「ごめんね…取り敢えず。ここから出よう」
「こくっ」
優しく彼女を引っ張ろうとすると、カクンっと態勢が崩れてしまう。慌てて抱き抱えると、申し訳無さそうに彼女は目を伏せた。そのまま便座にもう一度座らせ、足を見れば丁度足首の部分が紫色に腫れている。ばれない様に服を確認しては引っかかれたり噛まれた様子はない、恐らく逃げる際に足首を挫いてしまったのだろう
「ごめんね…よいしょ」
声を掛けては肩を担いで立ち上がらせる、ゆっくりとトイレを出てはトランシーバーを起動し、翠木さんに連絡を試みる
「翠木だ。何かあったのか?」
「はい、えと…生存者が居ました。ゾンビにケガを負わされてたりはしてないのですが…足首を挫いているみたいで」
「生存者…!?わかった。今向かおう、会話はこのままで。場所を教えてくれるかい?」
「はい」
トランシーバーをリュックサックの肩紐に戻しては、翠木さんに場所の詳細を伝えながら彼女と一緒に慎重に階段を下る。一階はゾンビが徘徊している、二階に通じる階段の踊り場来ては、二人で座り込む
「病院の規模が予想以上に広くてね…後2分ぐらい待ってくれ」
「大丈夫です。一応安全な場所にいるので…一階はゾンビが多いので、気を付けてください」
そう伝えて、隣を見れば震える彼女を優しく撫でる、大丈夫だよー?っと声を掛けてあげれば。こくこくっと頷きながらぎこちなく笑っていた、…此処の生存者…にしては無傷だし…何であんな所に…高校生かな?
「はぁ…はぁ…どうやら大丈夫そうだね」
「は、はい…翠木さんこそ大丈夫ですか…?」
足音がしたと思えば、翠木さんが息を切らせながら階段を上がって来た。走って来たの…?ゾンビが居るのに…そう思っていると通じたのか。翠木さんが道中の奴らは眠ってるよっと言ってくれた。…全部寝かせたんですね
「それじゃ、凛華君はその子を。僕が道中の奴らを処理しよう、手当は早い方が良い」
翠木さんの提案に頷いては再び彼女を抱えながら立ち上がる。辛そうにしながらも立ち上がる彼女にごめんね…っと言いながら歩き始める。…道中の翠木さんが凄かった。なんて言うか、アサシンだよ。あれ…ゾンビの背後に近寄って、脳天に一発、サバイバルナイフを突き立てては素早く引き抜き、死体を前に押して倒す。それの繰り返し、私にはできないって…訓練練習じゃないって。もうっ
「よし…もう安全だ。収穫もあるし…まずは家に戻ろうか?」
「はい、この子の手当てもしないとですし…あ、ごめんね。しゃべってもいいよ」
翠木さんの車に全員が乗り込み、病院から脱出しては道路を低速で走行しつつ、家へと進路を向ける。私はそう言うと女の子は嗚咽を漏らしながら隣に座る私に抱き着いて泣きじゃくった
「落ち着いた…かな…?」
「は、はい…すいません…」
ゆっくりと私から離れた彼女は恥ずかしそうに俯ていしまった
「僕は翠木涼太だ、好きに呼んでくれ」
「えっと…双海凛華…貴女の名前を教えてもらってもいい…?」
「井上…紗那…です」
弱々しく答えた彼女、紗那は緊張した様子で答えた
「紗那ちゃんだね…えっと、私が見た限りだと。ゾンビに引っかかれたり、噛まれたりされたない…よね?」
いきなり聞くのもアレだと思った、だけど。絶対に確認しないと行けない事だ。
「は、はい…噛まれた事も引っかかれた事も無いです…」
彼女も察してなのか震える声でそう答えた。良かった…本当に良かった…
「そっか…良かった…。紗那ちゃんは…何で病院に…?」
思はず泣きそうになるのを堪えながら、問い掛けてみる。紗那ちゃんは私を見ながら涙を零しつつぽつぽつと経緯を話し始めた
…
…
…
「…結局、一番残忍で残酷なのは…人間かもしれないね。凛華君の考えは正しいようだ」
翠木さんの言葉が今の私には深く響いた。あの翠木さんが言うとは思わなかったからだ
紗那ちゃんの話を説明すると、彼女はゾンビが世界中で溢れる様になり避難しようとしたが家族と離れ離れになった。一人で街を歩き回り、やっとの思いで避難所を見つけ絶望の中、駆け込むと。そこは地獄だった。軍人を名乗る奴らが銃で人々を脅し、キャンプの労働をさせ。抽選で何人かを選び食糧などを調達させる、何も持たさずに、だ。物資や食料の調達が必要なのは分かるが嗜好品を集めさせてもいるようだ、避難民には十分の配給をせず銃を持つ奴らが殆ど独り占め…持ち帰って来た者は再びキャンプに入れるが何も取って来れない者は入れて貰えない。男であれば子供であろうが、老人であろうが関係なく出すらしい。そして、私としては一番胸糞悪い話だが。若く、スタイルの良い女性はキャンプを仕切る奴らに色々されるらしい。紗那ちゃんもそれに選ばれ、少佐と呼ばれる男を突き飛ばした所、キャンプを追い出されたらしい。らしいと言うのは逃げる際に銃撃されたと言う。運良く当たらなかったが、殺す気だったのだろう、見せしめに
「えぇ…私もここまでひどいとは思いませんでした…」
「あ、あの…私も…私も連れてってください…お願いします…っ」
再び泣き出しそうな紗那ちゃんを優しく撫でながら落ち着かせる。ちなみに翠木さんは二つ返事で了承していた
「もぉー、そんなに泣かないの。取り敢えずは家に着いたらしっかりと休んで、足を治さないと」
「はい、はいっ…!」
泣き出す紗那ちゃんを撫でながら思わず笑ってしまう。妹が出来たみたいだ。翠木さんも笑っているようだった
…
…
…
「ここが僕達の拠点だよ」
「…翠木さんのお宅なの」
「す、すごい…」
うん、一般人だったら誰もがそう言うよね。って言うか、私も今まで気が付かなかったんだけど噴水がある。人工芝の生い茂る庭の中心に白い噴水がある、水は出てないけどね!
「さ、早く入ろう。手当てを急がないとね」
翠木さんに促され。慌てて車から降り紗那ちゃんを優しく担ぐ、かなり辛そうだ
「大丈夫?早く冷やさないと」
「す、すいません…」
「いいの、いいの。気にする事ないよ」
にこりっと笑い掛けながら地下ガレージから上へと移動する。紗那ちゃんの手当ては私が行い、翠木さんは荷物を運びこんでいた
「折れては無いみたい。でも、しばらくは走らない方が良いかな」
「ありがとうございます…」
ソファに寝かせては触診をし、痛みに耐えて貰いながら折れていないかを確認した。腫れているだけなのでひびの可能性もある。念の為と湿布を貼り、包帯でしっかりと固定した後。ギプスで固定した
「いい、右足はあまり動かさないでね?」
「はい…ありがとうございます。凛華さん」
多少余裕が出来たのだろうか、安心した様子で紗那ちゃんは笑った
「ふふ、あ、痛くなったら言ってね。確か痛み止めもあったはず…」
「丁度今箱で運んでいるよ?」
両手で大きな箱を抱えながら部屋に入って来た翠木さん。頭痛薬の在庫だろうか…?半分は感情で出来ています
「箱であったんですか…」
「運良くね、それと凛華君の持って来た物の中にも痛み止めはあったよ。ただ、注射器を必要とするタイプだけど。」
きっと強力な物だからあまり使わない方が良いけどね。って言いながら箱を置いてはふぅ…っと息を吐きながらテーブルを挟んだ対面のソファに座った
「もう夕方だ…夕食は作っておくから身体を洗って来ると良い」
「ありがとうございます。紗那ちゃん、行こ」
笑いながらそう言う翠木さんの言葉に甘え、紗那ちゃんに松葉つえを差し出しながら伝えると頷きながら立ち上がってくれた。家を出てから本当に濃厚な日々だ。今日も疲れたし、しっかりと疲れを取ろう。あ、紗那ちゃんの身体を洗ってあげないと…そんな事を考えながらこんな世界でも平和な暮らしをしている、翠木さんには感謝しかない、いや、本当。ぶっ飛んでる人だけどね!
少し過激な回でした。色々は色々です。想像力豊かな方は脳内保存で留めて下さいね!