イケメン(生還)
教室を脱出した俺は持ち前の要領の良さを発揮していた。
時にはその剣でモンスターを葬り、時には肉壁を盾に、時にはおとりにして、無事に塔の入り口へ着いていた。
――肉壁3人いてよかったぜ。敵もそんなにつよくねえ。流石勇者なだけあるぜ。レベルも4に上がったしな。
――よし。これで俺は退避完了だぜ!
塔に足を踏み入れる。
踏み入れた瞬間、俺は浮遊感と目眩、激しい頭痛に襲われてた。
気付くとまさしく異世界と言わんばかりの大きな城の前にいた。
目の前といっても歩いたら数十分かかる距離。
恵比寿は大きな門を背にしている。
正面、城の前は広場になっている。
――ていうか塔じゃねのかよ……
恵比寿は塔に入ったはずが、城の前にいる。
「え、ここどこなの!?」
「察するに、異世界ということでよろしいでしょう」
「恵比寿君! 私たちどうすればいいの!?」
うるせえな、自分で考えろよ
呆けて突っ立っていたら、執事服をきた初老の男性と、メイド服を着た少女が恵比寿に近づいてきた。
――なんだこいつら? 城の住人か?
俺は二人をじっと見て、品定めをした。
――じじいはいらねえがメイドは悪くねえな……
初老の男性は俺の前で立ち止まり、丁寧にお辞儀をして語り掛けてきた。
「退避の方ですね? おめでとうございます。無事退避した方には後程、報酬がございます。とりあえず、モンスターパニックが終わるまで、あちらのスクリーン前のコロシアムでお待ちください」
メイド服の少女は無機質な声で俺に告げた。巨乳なのに無表情だ。
「案内する」
メイドの胸がぷるんと揺れる。
俺たちは城に向かうではなく、脇にそれた広場の道を歩いて行った。
広場は広大である。まるでヴェルサイユ宮殿の庭園の様だ。……見たことないけどな。
広場の右奥に、とある空間があった。
近づくと空間は窪んでいて大穴が空いている。
空間の端の方はなだらかな階段のようになっている。
中央奥に巨大なスクリーンが中に浮いている。
まるでライブ会場のようだ。2000人は軽く収容できそうな広さである。
「ここはなんですか?」
俺は仮面を被って、丁寧でさわやかな口調で喋った。
二人は恵比寿を無視して先に進んで行った。
――おい、無視かよ……くそじじいが……俺は勇者だぞ……
メイドがぼそっ呟いた。
「コロシアムって言っただろう脳みそ足りんのか」
俺はメイドの口調にドン引きして固まってしまった。
「は、はい……」
窪んだコロシアムに着く。
「こちらでしばしお待ちください」
さっさと元来た道に帰る2人。
俺はコロシアムを見渡すと、知っている同級生が何人もいた。
同級生たちは俺を見つけるとすぐさま駆け寄ってくる。
「お~い!! 達也! 無事だったか!!」
「恵比寿く~ん、怖かったよ!!」
「さすが恵比寿、退避できたんだね」
「俺死んじまったよ……」
一斉にしゃべり始める同級生たち。
「そんなことないよ。パーティーのみんながいたからどうにか塔に辿りつけたんだよ」
――ああ、役に立ったぜ。肉壁としてな!
俺は人好きにする笑顔で受け答えをした。
死亡した生徒は城内にある教会で復活した。
城への転移時間はばらつきがある。
死んだ者の装備がなくなっている。
LPは減っていなかった。
タブレットはハンドフリーで使える。
藤崎がクラスメイトを犠牲にしようとしたらしい。
ここは塔の1層らしい。等々……
――大した情報はないな……当たり前か、今はおとなしくして俺のハーレムを築く下準備をするか……
妄想にふける。
奥の巨大スクリーンに動きがあった。
スクリーン画面上部にメッセージが流れ出る。
【モンスターパニックが終了するまで、こちらの映像を観ながら今しばらくお待ちください】
画面には体育館裏で戦っている神楽坂幸子が写っている。
「うお、すげええ!」
「なんか映画みたいだね」
生徒たちがわいわい騒がしくなってきた。
神楽坂の戦闘だけではなく、ほかの生徒の逃走劇やモンスターに殺される瞬間など様々な場面に切り替わっていく。
――あいつは死んだのか?
俺は藤崎ハルキの事を無視できない。目障りなハエだと思っている。
スクリーンを通して警告音が発生する。
新しいメッセージが流れる。
【ボスモンスターが出現しました。皆様応援をしてあげてください】
そこに映るのは、赤い鬼に瞬殺された神楽坂幸子。
素早く身構えて対処する藤崎ハルキとピンク色のうさぎ。
現時点の生徒から見て、別次元の激戦が始まっていた。
――おーいおいおいおいおい!! なんだよこれは! 勇者の俺より目立ってんじゃねよ! くそむかつく!
恵比寿は戦っている藤崎をみて、今までに無い嫉妬の渦に巻き込まれていった。