うさぎ祭り
ピンクうさぎが「きゅきゅ」って鳴くと、タブレットに文章が表示される。
『わたくしはアリス! 素敵なイケメンさん……危うくわたくしの高貴な貞操が下賤な輩に散らされるところでしたわ……』
「発情的な意味で襲われていたんだ……あ、俺は藤崎春樹、ハルキって呼んでくれ」
うさぎと会話しているシュールな俺がいる……
こくこく頷くピンクうさぎ。
未だ胸にすがりついている。
タブレットを俺に突き出してきた。
アリスはこれを押せと仕草で表してる。
俺は何も考えずにポチッと押す。
頭の中で鳴り響く。
「ぼっちパーティー申請完了しました」
うさぎとパーティー??
疑問も謎もあるし、ボッチ? もふもふしてて可愛らしいが……こいつのせいで黄色うさぎの軍団がこっちに向かって来る……
中庭にいた黄色うさぎは異様に興奮した様子だ。
「「きゅきゅ! きゅうう!!」」
なんだろう……俺の女をとるんじゃねえ! って言ってる感じだ。言葉は通じなくてもなんかわかる……
後少しで戦闘になる距離に黄色うさぎ達がいる。
あいつらはさっきまでの雑魚とは違う。モンスターパニックでは強者だ。
ヤバい、死ぬかもしれない。超興奮してきた。
あの速度、爪の鋭さ、殺意濃さ。
胸がドキドキしてくる。
学校内のモンスターは初めは興奮したが、俺のレベルが上がるたびに雑魚化していった。
気持ち悪い笑いが抑えられない。
「ふっふっふ……」
そんな強い奴らが集団で襲いかかってくる。普通は絶望と死を覚悟するだろう。
――俺は違うゾクゾクしてきた!!
「きゅきゅ?」
アリスは笑っている俺を見て怪訝な顔をする。
――先頭集団がくる。
「行くぞ! アリス!」
俺はピンクうさぎを片手で尻から身体を持ち上げ、思いっきり投げつけた!
「きゅうーーーーーーーー!!」
レベルアップの恩恵でありえない力で投げ飛ばされたアリスは、回転をしながら黄色うさぎの戦闘集団に飛んでいく。
爪を伸ばし独楽の様に空中で黄色うさぎを斬り殺す。
キレイに着地をし、そのままアリスは爪と風を操りながら攻撃を続ける。
「きゅ! きゅ! きゅ!」
ちらっとこっちを見る。ちょっと怒っているかも……だがナイス斬殺! 思った通りの感じになった。サムズアップをする。
突然のピンクうさぎの攻撃に戦闘集団の足は止まった。
ピンクうさぎが戦っている間で戦闘準備をする。
流石にこの数は武器がいる。
死んで光になって消えた者たちの装備は、学校中に落ちていた。
今まで身体の急成長や心の合致を試すかの様に素手で戦っていたが、ここで初めて拾っておいた武器を取る。
道場では色んな武器を習った。鎖鎌、槍、棒、手裏剣、斧、十手、ナイフ、刀。
一番身体に染み込んだ獲物を使う。
見たことがない材質で作られたそれを拾った時、心が踊った。
「本当は小太刀で二刀流にしたかったが仕方ない」
背中に括り付けた黒い刀身の刀を構えた。
「アリスーー!! 合わせろよぉぉ!!」
刀を大振りする必要はない。必要最小限の動きで切り裂いていく。
剣先10センチのみで黄色うさぎの喉を切り裂く。目を貫く。間合いの内側に入った黄色うさぎは強烈な蹴りを与える。刃で撫でる。
黒い刀身は恐ろしく切れ味良い。肉の脂で切れ味も鈍らない。
コイツらは首を狙う。初めから狙う場所がわかれば動きがわかる。
アリスの背中を攻撃しようとした黄色うさぎを俺が斬り殺す。
アリスも俺の死角から攻撃しようとした黄色うさぎを風の刃と爪で斬り殺す。
徐々に互いに背を預けながら戦う事になった。
無心で黄色うさぎを斬り殺し続ける俺たち。
頭の中で「ピコーン、ピコーン」と鳴り響く。
レベルアップが続く。体力が回復して力が湧いてくる。
ピンクうさぎもレベルが上がっているようで、動きが少しづつ早くなってくる。
今でさえブレるくらいの高速で動いているのに更に加速していく。
「きゅ!? きゅきゅきゅ! きゅっきゅ! きゅーい!」
突然ピンクうさぎは俺を後ろへ誘導し始めた。
襲いかかる黄色うさぎをいなしつつ後退を始めた。
四方にいた黄色うさぎたちが正面から攻めてくる。
かなり殺したがまだまだ数は多い。
俺の前でアリスが仁王立ちをする。
小さな両手を突き出し、力を溜めている。
アリスの周りに風が渦巻き始めた。
身体に力が濃縮されて、抑えられたものが今に爆発しそうな感じだ。
「――きゅぅぅぅぅーーい!」
黄色うさぎが俺たちに飛びかかる寸前、力が爆発した。
黄色うさぎに向かって暴風が舞い上がる。その暴風は正面にいた黄色うさぎを舞い上げながら刃で切り裂いていく。まるで魔法を使ったようだ。いやこれは魔法だろう。
どんどん大きくなる暴風。中庭全域に広がっていった……
黄色うさぎの血の雨が中庭に降り注いだ。
――圧倒的な暴力だ。すごいな……
黄色うさぎはほぼ全滅した。
頭で鳴り響くレベルアップ音。
暴風の力で大破した中庭だけが残った。
俺とピンクうさぎが目を合わす。
こいつは戦友だ……
俺はよくリア充たちがやっていたように拳を合わせようとした。
うさぎの身体がブレる。
俺はアリスの体当たりを受けてうずくまってしまった……
……力強いな。
アリスはタブレットを見せながらプンプン怒っていた……
『ちょっと、淑女を投げるとはどういう事ですの! ……ま、まあ、あなたのおかげでうさぎ狩りが効率良く出来たから、褒めて上げてもよろしくてよ』
やっぱ投げたの怒ったらしい……ちょっぴり顔が赤くなっていて可愛いな。
「ああ、すまんな。多分行けると思ってね……」
『全く……いいわ、許してあげますわ! ハ、ハルキでよろしくて? ……イケメン殿方と話すのは緊張しますわ。ああ!? 心の声が丸聞こえじゃないの! き、きゅきゅ!!』
「は、はは……」
そんなやり取りをしている時、遠くから声が聞こえた。
アリスの耳がピクピク動いた。
ドタドタと物々しい音を立てて中庭へ誰か駆け込んで来る。凄い勢いだ。
「ハルキーー! 大丈夫か……なんだそのうさぎ!? 魔物か? 今助けるぞ!!」
筋骨隆々な美少女、神楽坂幸子が一人で中庭に現れた!
まだ生きている奴がいたのか……しかしまた面倒な奴が現れたな……ちょっとは休ませろよ。
俺はアリスに危害が行かないように、アリスを抱きかかえた。
顔を真っ赤にしながら「きゅきゅ」っと言っているが抵抗はしない。嫌では無いらしい。
アリスにふさふさしたキレイな毛を撫でながら神楽坂に告げる。
「あ〜、神楽坂。こいつは仲間だ。勘違いするな。いつもどおり俺と関わるな。すぐ消えろ」
アリスも同意を示す。
「きゅ!」
神楽坂は道場の姉弟子であり幼馴染、弱い俺に興味がなく、俺がいじめられても、馬鹿にされても無関心のはずだった。むしろ荒稽古をつけられた記憶しかない……何度バケツから水を被せられたか……
「――な、何を言っている。なんだその言い方は……こんな時こそ助け合う時だろう。弱いお前を私が守らなければ誰が守る! 私達はけ、結婚を誓った幼馴染だろ! 学校では中々話す機会がなかったかもしれないが、道場ではいつも組手をして愛情を示していただろう!」
神楽坂が泣きそうな顔をしている。
――驚愕だ。
あの神楽坂が乙女な性格しているだと?
異世界に転移して性格が変わったのか?
俺の心が変わったから見え方も違うのか?
ていうか、結婚の約束って何?
頭がパンクしそうになる……
神楽坂は俺に手を差し伸べた。その顔はいつもとは違い、慈愛に満ち溢れている。
「さあ、そんな危険なモンスターを置いて私と逃げるんだ!」
近づいてくる神楽坂。後ずさる俺。
本気出して逃げるか? ……こいつボーナスポイントがえらく高かったよな。
今まで生き残っているってことは強いんだろうな。
元が強いしな。
俺は神楽坂をどうやって巻こうか考えている時に、アリスと神楽坂のタブレットから警告音が発生した。
うさぎはどこからともなくタブレットを宙に取り出した。
それ宙に浮くのか……ちょっとかっこいいな。
タブレットが告げる。
「一定数量のモンスターの消失を確認いたしました。ボスモンスターが出現いたします。お気を付けください」
相変わらず説明少ない……
突然大地から振動を感じた。
地震??
いや違う。振動が止まる。
中庭、噴水辺りの土が突然湧き上がった。
土から赤い大きな腕が伸びる。地面を両手で掴み力いっぱい身体を起こす。
赤い物体が飛び出した!
「うぅぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーん!!」
大きな咆哮とともに、赤い物体が俺の近くにいた神楽坂へ恐ろしい速度で襲いかかる。
「あっ……」
何か言おうとした神楽坂は一切反応もできずに首を刈り取られてしまった。
赤い物体は……神楽坂の頭を太い腕で握り潰しこちらを睨みつけた。
赤い鬼が現れた。
ギロリと俺達を睨み、筋肉を隆起させた。
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