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スレ立て 序

 

 わらわの身長に合わせて、背の低い大きな机の上にはパソコンやお菓子、お茶が乗っている。


 居間から見える広大なお庭は小綺麗に手入れされていて、我ながら和の美意識高い庭なのじゃ!。


 ――着物が大分汚れてきたのじゃ……人と会わないからかまわないのじゃ。


 わらわはお茶で一息をつく。


「ふぅ。茶がうまいのじゃ」


 茶請けの羊羹をかじりながらパソコンを操作する。


「さてさて何人死んだのじゃ? もう全滅かのう?」


 そこにはプレイヤーが転移した世界の詳細がある。

 画面には、メニューやタスク、データ、マップ、様々な情報が詰め込まれている。




 わらわは羊羹を吹き出した。


「ぶほっ! なんじゃ、このモンスターの討伐率は! ありえんのじゃ、転移転生後のモンスターパニックはただの死にチュートリアルみたいなイベントじゃ」


「……今回は頭がおかしい転移者と転生者が多そうなのじゃ」


「色々いるのじゃが、ハルキ……こいつが一番頭がイカれているのじゃ……」


「ハルキ 討伐モンスター数893匹、レベル32……」


「やば、ちびりそうじゃ……」


 いそいそとトイレへ向かう。


 スッキリして改めてパソコンへ向き直った。


 WIKIを立ち上げる。


「え〜なになに、一定数のモンスターを討伐するとボスモンスターが出現。本編「嘆きの塔」の5層に出現するボスモンスターと同等の戦力」


「追記、ナイトメアモードはWIKIが当てになりません」


「5層ボス!! 討伐推奨30レベル(5人パーティー時)!!」


「これは面白いことが起こりそうなのじゃ!!」


「倒せたら本物の変態なのじゃ!!!」


「スレ立てするのじゃ! 祭りじゃ!!祭りなのじゃ!!」


 わらわは凄まじい速度でタイピングをした。


 【無職最強】モンスターパニックを駆け抜ける漢ハルキを見まもるスレ【変態ボッチ】









 ――レベル33になりました。詳細はタブレットを確認して下さい。


 俺は教室を出たらすぐにモンスターと遭遇した。

 そのまま本能に身を任せて戦闘を継続した。


 今までの鬱憤を晴らすかのように壮絶なバトルを繰り広げた。

 小鬼も蛇も虫も犬人間もバケだぬきも盗賊もトカゲもスライムも、みんな殺した。


 楽しかった。

 時間も忘れて夢中になった。興奮した。

 我を忘れた。


 レベルが上がれば強くなる。魔術やゲームみたいなスキルなんてものは覚えない。もともと道場で習得した、本当の意味でのスキルがある。身体に染み込んでいる。


 レベルが上がると身体能力、体力、精神力、すべてが強くなる。

 タブレットがないから詳細はわからないが、全能感に満ち溢れる。


 最後のモンスターを倒してレベルアップをしたら、辺りが静寂になっていた。

 モンスターが来る気配が無い。


 血と汗を拭って少し休憩をしようと思った。

 手短な死骸に腰をかけた。


「良い運動だった。過去を吹っ切れた感じだな」


「さて、どうするか……。色々整理しよう」


「前の世界では俺の心がおかしかった。いや、今が変わりすぎたのか? ……この件は保留だ。考えてもわからん、後回しだ」


「異世界転移について。……情報が少なすぎる。まずタブレットを持っているやつをとっ捕まえて情報を入手しよう。塔ってやつに入ってからゆっくり考えよう。これも後回しだ」


「モンスターパニックの俺の目標。……退避はしない。レベルを上げる」


「途中からレベルが上がる速度が遅くなった。ゲームと一緒か……強いモンスターを殺す必要がある」


「グラウンドにはモンスターが溢れかえっているから行ってみっか。こっからだと中庭を経由して行くか……。確かあっちの廊下だったな」


 俺は死骸から腰を上げて廊下へ進んで行った。








 中庭に続く廊下の奥まで進んだ。遠目からでもわかる何かがいた。


 黄色いウサギがいる。

 その姿はまるでゲーセンのぬいぐるみのようだ。

 大きさは50センチぐらいで本物のうさぎよりだいぶデカイ。

 もふもふしているが、これもモンスターなのだろうか?


 二本足でとことこ俺に近づいてくる。5メートルくらいの距離で止まる。


「きゅ、きゅ」


 首をかしげながら喋っている。意外とかわいいな。


「きゅ!きゅきゅ!」

 

 首に殺意が集中する。


 ウサギがいきなり高速で飛びはねてきた。

 隠していた鋭い長い爪がきらめいている。


「うお、あぶね!」


 首を狙うその一撃を紙一重でかわし、アッパーを繰り出した。

 ウサギは天井に激突した。

 落ちたところに渾身の拳を頭に叩きこもうとする。

 瀕死のうさぎは執念深く爪で首を狙って来た。

 

 ――首に痛みを感じた。


「きゅう……」


 動かなくなる黄色うさぎ。


 倒せた。

 今までで一番危なかった……


 首筋から少し血が流れていた。

 躱すのが少しでも遅かったら即死していただろう……


「危ねえ……なんだあの首への執念は……。身体が頑丈になったからって油断は禁物だな……よし! 気合を入れてくぞ!」


 気を入れ替えて、中庭へと続く扉を開けた。

 中庭へ出るととそこは首刈りウサギだらけだった……





 開けた扉を閉める。

 少しだけ隙間を開けて、身を隠しながら様子を伺う。


 中庭は広い。生徒達の憩いの場として開放していた。

 公園の様に真ん中に噴水があって、ベンチが所々においてある。

 開放的な空間も暗い緑色の空の下だと気が滅入る……


 黄色首刈りうさぎは至るところにいた。

 まるで全校集会みたいだ。

 多分200匹はいるんじゃないか?


 噴水の近くのうさぎ達の様子がおかしい。

 一部の黄色うさぎが、何かに襲いかかっている。

 

 ――ピンク色のうさぎ?


 黄色うさぎに囲まれて襲われているうさぎがいる。


 黄色いウサギよりも一回り大きくてピンク色したウサギ。

 キレイな毛並みは光沢を放っている。

 耳にアクセサリーを付けて、他のうさぎとは違う貫禄がある。


「きゅ!きゅきゅ!」

「きゅっきゅっ〜」

「きゅきゅ!!!」


「きゅー!」


 ……わからん。


 ピンクのウサギが爪をふるうと風が唸りをあげる。

 黄色いウサギが切り裂かれていった。

 遠隔攻撃? 少し離れた黄色うさぎも血を流して倒れていった。


 少しずつ、黄色うさぎの参戦数が増えていった。


「なんだ、仲間われか?」


 俺は扉をもう少し開けて、身体を前に出して目を凝らして戦いを見たいた。

 こっからだと大体30メートルぐらい距離があるな。





 ――ピンクウサギと目があってしまった。





「きゅ、きゅきゅきゅ! きゅー! きゅきゅ、きゅきゅきゅ!!!!!」


 ピンクうさぎは砂埃を上げて、驚くべき速度で俺の方へ向かって来た。


 二足歩行で、短い両手あげている。


 ヤバい首刈るつもりか?

 

 だが敵意が無いようにも思える………はや!!


 考えるまもなく、ピンクうさぎは俺の胸の中に飛び込んで来た!


「きゅきゅきゅ!!」


 ピンクうさぎは黄色うさぎの大群に向けて爪を指して何か喋っている。


 ――んっ!? いつの間にうさぎがタブレットを握りしめている!?

 

 俺にタブレットを向けて、くりくりお目々で何かを訴えかけていた。




『ちょっとそこのイケメンさん、手伝ってくれてもよろしくて!! 不埒なうさぎを成敗しますわ!!』


 

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