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イケメン(偽)

 クラス一番のイケメン男子、この俺、恵比寿達也は思考をフル回転させている。


 俺はほどほどに高い身長とサッカー部で鍛えた筋肉質な肉体、自分磨きに余念がなく、おしゃれで清潔感もあり顔もほどほどに整っていると自分では思っている。


 クラスで一番のイケメンといわれる所以は俺のまめな性格のおかげだろう。


 クラスメイトが困っていたら親身に相談にのってやり、クラスメイトが不良に絡まれていたら助けに行く。俺はクラスメイトのためだけに動く。


 本当に細かいところまで気が利く性格は恵比寿をイケメン風に見せてくれる。

 全ては俺の評価に繋がる。


 クラスメイトや知り合い以外には無駄な作業になるからそんなことはしない。


 ――そんな事したら時間の無駄だ。


 クラスを離れて世間一般からみたら中の上程度だと自覚している。だがこのクラスにいる時は、超絶補正がかかりNo1イケメンでになるぜ!


 それは俺の努力でもあり、本当にかっこいいわけでも性格が良いわけでもない。……作り込んだ自分だ。


 ――正直疲れる。


 俺の根底にあるものは嫉妬や虚栄心。

 心の中はいつもドス黒いものが渦巻いている。


 ラノベやゲームが大好きである俺は異世界転移に浮かれていた。

 これから異世界チーレムを作れるんだと思っていた。


 モンスターパニックの告知があってもチート(ボーナスポイント)の力で大丈夫と楽観視していた。


 恵比寿は慌てふためくクラスメイトを見ながら考えていた。


 ――女神いねーし、王女に呼ばれたわけじゃねーし、外れ異世界かよ。


 ――まあボーナス32ポイントはクラス上位になるからクリアは楽勝だな。職業は勇者だしな。もう少ししたらハーレム築くぜ。


 ――しかしマジでいきなりだな…… せっかくの学級裁判が台無しだぜ。





 仮面彼女をやめたくないって言っていた七海を誘導してうまくいってたのによ……


 学級裁判の時の東雲七海は顔面蒼白の顔をしていたのはわかっていた。

 状況は七海の意思とは無関係に進んでいた。



 俺は藤崎が嫌いだ。


 俺は自分を磨くことにかけて天才的な能力を発揮する。人を見抜くのにも長けている。


 藤崎は本物だ。なんであんなオドオドしてるかわけわからん……俺があんだけスペックが高かったら……


 俺は自分で自分のことが偽物だと自覚している。

 藤崎を見るたびに嫉妬心が沸き上がる。


 客観的にみた藤崎は、モデルのようなスタイルと筋肉質な肉体が絶妙なバランスで取れている。長い髪で隠れがちだが、時折見える顔は美しいと言っていいだろう。


 きれいな睫毛に切れ長の眼、スっと通った鼻梁、女子に負けないきめ細かい肌。

 見た目であれに勝てる人間はそうそういないであろう。

 頭も良い。常に学年上位に入っている。


 ただ気の弱い性格が弱点である。


 そこに俺は付け込んだ。友達になる振りをして近づいた。藤崎は無口だが少しずつ話していき信頼を築き、色々な話を聞くことができた。


 藤崎をクラスカースト最底辺になるように俺が仕向けた。


 理由はただの嫉妬だ……


 ――モンスターパニックだか何だか知らねーが、まあとりあえずグランドにある塔に向かうか。グランドはヤバい感じになってるが上手いこと駒をつかって塔ってやつに入るか……


 キョドっている俺の仲間達を冷たい目で見る。


 ――よし! いっちょ調子上げさせて肉壁にするか! クズども付いてこい! 俺勇者だし大丈夫だろ!



「みんなグランドへ行こう‼ 俺の職業は勇者だ! だから安心しろ! 慌てずに慎重に、もしモンスターが来ても俺に任せろ!」


 爽やかで明るく裏を感じさせない声で俺はパーティーの駒に告げた。


「うん、そうだな……」

「ここにいても仕方ないよね」

「怖いけど行こう……」

「勇者ってすごいじゃん! 僕、盗賊だから先導するよ!」







 意気揚々と教室の扉を出ようとした盗賊の男の子が突然血を噴き出して倒れた。


 強面の戦士風の男たちが教室に入ってきた。


 戦士との距離は近い。


 ――おいおい、まじかよ! 人死んだよ! ……クールになれ落ち着け。こういう時は出会い頭の一発が大事だ!




 恵比寿は剣を抜きながら戦士に怒鳴りつける。


「おまえら何者だ!? 勇者の俺に勝てんのか!」


 俺は自分を偽るのがうまい。無駄にクラスメイトを助けるために、不良やヤクザ相手に立ち向かわなければいけない経験が生きている。

 

 戦士たちは少し怯みながら、仲間と相談し始めた。


「ゆ、勇者だと!? ……貧乏くじ引いたか」


「はっ! まだレベル1だ。勝てんだろ!」


「ふん! 俺たちはモンスター落ちした元ダンジョン攻略者だ。そんなこたあどうでもいい。確かに勇者はやっかいな職業だ。だが、てめえらは転移したてのレベル1! 俺たちの糧になれ! てめえらのLpが必要なんだよ!」


 戦士の血の滴る短い剣に力が入り始めた。

 他の二人は武器を構えながら入り口を塞いでいる。


 ――人間型のモンスター……RPGの盗賊みたいなものか?


 戦士たちの威圧感は学生ではとても耐えられない。

 高ボーナスポイントの恩恵により俺はなんとか耐えられる。


 何度も言うが、俺は人を見抜く能力に長けている。

 全力で戦えば勝てると確信していた。だが、無傷では難しいだろう……


 ――交渉するか……




 周りのクラスメイトは恐慌状態で思考が停止している。

 俺と戦士のやり取りを遠くからみている。

 ちらっと藤崎を見る。


 比較的、俺に近い位置にいる藤崎は、瞑想しているかのように目を半眼にしてリラックスをしている。この状況に恐怖を抱いていないようであった。


 ――ちっ! むかつく態度だ! ……軽く嵌めてやるか……)


 恵比寿を警戒している戦士。

 恵比寿は剣を収めてゆっくり戦士に近づいていった。

 戦士が短剣を振り上げそうになる時、恵比寿は戦士にだけ聞こえる声の大きさでしゃべった。



「まあまて、俺と俺のパーティーは見逃せ……その代わり他のパーティーを殺すなり犯すなり、奴隷にするなり、すきにしろ……わかっていると思うが勇者の俺と戦ったらお前ら確実に死ぬぞ……」


 一瞬苦い顔をした戦士はわずかに頷いた。


「……なかなか悪い勇者だな」


 俺は続けて言った。


「ふん……」


 警戒する振りをして後ろへ後ずさる俺は、半眼の藤崎の所へ近づいて行く。


 俺は藤崎と相談するふりをする。


 恵比寿は藤崎の顔の近くに耳を持って行った。

 藤崎は無言で喋っていないが、耳打ちしたように見える。


 間髪いれずに恵比寿は大声で喚いた。


「おい藤崎! 馬鹿なこというなよ! みんなを差し出して自分だけ逃げるっていうのか! てめえはそこまでクズなのか! みんな逃げろーー!!」


 ――どうせ死んでも生き返るんだろう? あとは知らねーな。


 戦士達はそれをタイミングに俺たち以外のパーティーに襲いかかってきた。



 俺は戸惑うパーティーメンバーを先導して、狂乱きわまる教室をそっと脱出した。


「ほら! 早く逃げるよ! 俺が前に出るから!」


 ――あいつら本当に襲いかからなかったな……そんなに勇者という職業が強いのか……ククク……俺の時代がやってきたぜ!


 俺はほの暗い笑顔で先に進んで言った

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