終わりを告げる日常
俺はクラスでイケメンと言われていた恵比寿達也だ。
クラスで上手く立ち回り最高カーストまで上り詰めた男だ。
顔もイケメン、性格も爽やか優しい、勉強もほどほどにできる。完璧だった……
――本当に完璧だったのか?
藤崎を嫉妬し憎み、陥れていじめていた。
藤崎だけじゃない、自分の利益になるためには他人を蹴落としていた。
俺の悪行は全てばれた。
モンスパの件だけじゃなくて、転移前に散々やらかしたことも全てだ。
俺の事を面白く思ってない同級生たちがここぞとばかりに責めてきた。
誰も俺には関わらなくなった。
取り巻きたちも様子を伺ってるだけで近づいてこない。
異世界カースト最底辺になった気分だ。
藤崎にボコられて藤崎が憎い、そして怖い。
だが、藤崎の言葉を聞いて胸のモヤモヤが止まらない。
城内の町をあても無く歩きながら考えていると、怒鳴り声が聞こえた。
「マジで使えねー!」
「ポイント安かったから頼んだけど失敗だったねー。てめぇのせいで死ぬところだったぞ!」
あれは隣のクラスのDQNグループだ。
誰かを蹴って叩いてなじっている。
見ていてムカムカする。ハラが立つ。イライラする。
あいつらを通して自分をみている様でたまらなく嫌だった。
気付けば身体が勝手に動いていた。
DQN達が血を出して倒れている。
俺の拳も痛い……
「あ、あいつクズ恵比寿だ!」
「クズ勇者だぞ! 逃げろ!」
蜘蛛の子を散らすように逃げるDQN達。
あとに残されたのは8~10才くらいの小さい女の子だ。
女の子は俺が近づいてもしきりに謝っている
「ごめんなさい! ごめんなさい! ポンコツですみません!」
顔を上げる少女。
綺麗にツインテールにした金髪が似合う愛らしい顔をしている。
「あいつらもう行ったぞ……じゃあな……」
「へっ、ち、ちょっと待って下さい! あっ! もしかして助けてくれたんですか!」
無視して俺は歩き出した。
「待ってくださーい! 助けた責任とってくださーい!」
少女は俺のあとをいつまでもついてきた……
**********
「きゅきゅ!」
焼き鳥を嬉しそうに頬張るアリス。
短いしっぽがふるふる震えている。
俺達はこの2週間、順調に塔の攻略をしている。
実は10層ボスのボス部屋まで行ったが、もぬけの殻だった……。
メイドに伝えたら深刻な顔をして今日は終了と言われた。
なんだろ?
今はいつもの日課で街を探索しているところだ。
城内の街はとても広い。
入って中央には噴水がある。
そこから放射状に区画が分かれていて、たくさんの商店やNPCが働いている。
ちゃんと城として上の階層もある。至るところに階段がある。
転移生徒たちはみんな充実して働いている。
3週間経ったのでみんな慣れたものだ。
「おう! 藤崎! 俺が作った武器みていけよ」
俺達は鍛冶屋で武器を物色していたところだ。
そこで働いている生徒は俺の同級生の田中くんだ。
威勢の良い田中の頭を屈強なドワーフが殴る。
「バカ助が! お前はまだ半人前だ! ほらとっとと裏で作ってこい!!」
「はい! 師匠! 頑張ります!!」
敬礼をしながら裏に走っていった。
「やれやれ、元気だけは一人前だのう」
ドワーフは孫を見るような温かい目で走っていく田中の背中を見ていた。
俺は頼んでおいた特注の刀と小太刀を買って店を後にした。
今度はアリスの希望で俺たちは服飾店に来ていた。
防具として使える洋服を扱っているお店だ。
ひらひらしたドレスでも服飾スキルで立派な防具になる。
ただし値が張る……。
俺が着ている服もここで買った。アリスのセンスでお願いしたら、洒落た濃い紫のショートジャケットになった。俺は気に入ってるが、たまに生徒からバープル呼ばわりされる。
ここにも同級生がいる。名前は忘れたが――――
「あ、藤崎くんいらっしゃいませ! アリスちゃんもこんばんわ!」
――おとなしい小さい男の子だ。確か学校の一部の女子達に凄い人気がある生徒だ。
「あら、いらっしゃい。アリスちゃんこちらへおいで……」
今日はマダムがいるようだ。綺麗に年を取ったマダムは上品な口調と仕草でまるで貴族みたいだ。アリスへ優しく手を招く。
「今日はうちの可愛い子が作ったマフラーがあるのよ! アリスちゃんにピッタリよ!」
アリスの事がお気にいりで、大変かわいがってもらっている。
アリスも「きゅきゅ!」って言いながら椅子に座っているマダムの膝上に乗る。
マフラーを巻いてもらってご満悦のアリス。
マダムは笑顔で俺に言い放った。
「58000ポイントになるわ」
こうして俺は散財をしていった……。
今は7時30分。
いつもよりも少し早めにカフェに来ている。
ボス部屋をどうやって攻略しようかアリスと相談中だ。
今日の新聞を見る。モンスター予測も書いてあるから重要だ。
他にも色々な記事が書いてある。
このモーニング時間は結構人が多い。
いつもどおりボックス席には神楽坂達、塔を攻略しようとしている他の世界の生徒達、勇者はテラス席にいる。
……あれは恵比寿。何故か幼女と一緒にパフェを食べている。見なかったことにしよう。
そろそろ8時になる。
メイドは時間に正確だ。
――でも来ない。
少し遅刻するだけだろうと思っていたが、そろそろ9時になろうとしている。
なんでだ?
俺は立ち上がり周りを見渡すとカフェ厨房からギャルソン服を着た汐高生が出てきた。
「すんません!! 今日は食材とスタッフが不足していてもう作れません!!」
コックコートを着たカトリーヌの女生徒も出てきた。
「申し訳ないでござる。NPCのシェフが不在でもう限界でござる……」
神楽坂たちのところもチャラ男が来ていない。
他のパーティーに付いているNPCがどこもいない。
どういう事だ。
アリスは俺の横にぴょんと飛んで来た。
『これは不味い予感がしますわ? 皆様いないなんて不自然でございます』
神楽坂たちが近寄って来た。
「ハルキ!! チャラ男を見なかったか? あいつはあんな奴でも時間は必ず守っていた」
神楽坂は少し心配そうにしている。
「だよね〜、ていうバカっぽくしているけど超出来る男なのよね〜」
豊洲もしきりに周囲を見渡している。
「あら、そうですね。実は紳士的でたくさん塔の事を教わりました」
東雲はアリスを見つめている!
俺たちは街へ行ったり塔まで探しに行った。
街にいたNPCも全員いなくなっていた。
夜になるまで探し続けたが誰も見つからなかった……。
唯一、恵比寿の少女NPCだけが存在していた。
突然、生徒達のタブレットから警告音が鳴り響いた。
「10層特別試練、攻城戦が始まります」




