豊洲と女達
わたしは豊洲マホ、汐留高校2年のギャル風女子。
運動も勉強もあまりできず、これと言って特徴が無い自分の個性を出そうと思った結果、ギャルになっちゃった……
隣の席の藤崎の事を軽くいじってデートの約束(強制)取ったら突然異世界に転移しちゃったの……
パーティーの仲間が私を引きずってなんとかモンスターパニック? を退避できて、1000ポイントをゲットできた。
胡散臭いチャラ男のセレモニーも終わり、私達パーティーは話し合いをして城内へ行くことした。
城前広場を抜けて城内に入るとそこは街になっていた。
様々な商店と行き交う3つの世界の生徒達で賑わっている。
手に入れたポイントで雑貨を買う人、宿泊場所を確保する人、ポイントが無いから乞食をする人、仕事を探す人……
わたし達パーティーはここで別行動をしていた。
分担して、この世界で生きる上で必要な物品を購入、もしくは情報を探していた。
――わたしは藤崎に会いたい。
コロシアムでスクリーン上のボス戦は目まぐるしく画面が切り替わった。藤崎が写ったり漫画みたいなイケメンの騎士や身体に義手みたいな機械がついている美少女達が激闘を繰り広げていた。
藤崎は死にそうになっていたけどなんとかボスを倒していた。
でもコロシアムには来なかったの……
女子も男子も他の世界のイケメンと美少女に釘付け……
藤崎の方がカッコいいじゃん!
近くにいた恵比寿は般若みたいな顔になっていたけど……また藤崎のことイジメるのかな?
あいつ死ねばいいのに。でもわたしが何か言ったら矛先はわたしに向かう……
あーー、弱い自分が嫌でギャルの格好しているのに……
――ん、よし! 悩むのはヤメ! 藤崎を探そう!
生徒が多いからきっとコロシアムには来なかった。
あいつが行きそうな場所、人混みが嫌い、……もうホテルで寝てるんじゃない?
わたしは近くにあった城内見取り図を見る。
きっとここでしょ!
城内にある宿泊案内所を目指した。
城内入口から数分歩いて宿泊案内所前に着いた。
「うわぁ……最悪、なんで神楽坂と七海がいるのよ……」
わたしは一人愚痴る。
神楽坂幸子と東雲七海 と出会ってしまった。
(脳筋女の神楽坂は普段藤崎のことを馬鹿にしたり冷たいのに、凄い私に構ってオーラが出ているよ。わたしは藤崎を理解している! って馬鹿面してるし。好きな子に意地悪する小学生かよ! クールぶってるけど態度に出過ぎ!)
(七海は……とりあえず死ね。藤崎の気の弱さにつけ込んで付き合いやがった。嘘カップルってなんだよ! 本当に付き合う気満々だっただろ! この隠れドぐされビッチが! ネチネチ腹黒くて清楚なフリして影でドぎついいじめしてんだろがよ!)
神楽坂と七海は無言で辺りを見渡している
――ちっ、こいつら邪魔でしょ。案内所に入って藤崎が止まる場所を聞くかな。ん……あ、あれ藤崎!!
藤崎がこちらの方へ歩いて来る。
横には子供くらいの大きさのうさぎが2本足でスキップしている。
ピンク色の毛はさらさらしていて、モフモフまるっとした体型が可愛らしい。手足は短くてお目々はくりくりしている!
――なにあれ! 超かわいい!!
七海と神楽坂も藤崎に気がつく。
突然、神楽坂は七海に腹パンをした。
七海がうずくまっている。神楽坂は藤崎の元へ走っていった。
神楽坂の突然の行動に固まるわたし……
あれ、七海の背中から衝撃波がでていたよ……
「ハルキ!! 大丈夫だったか! 怪我は無いか! またあえて良かった! さあそんな凶暴なうさぎを捨てて私とパーティを組むんだ!!」
わたしは衝撃をうけた。
――!!!そっか!!! 藤崎とパーティーを組めばいいんだ!
七海は吐き気をこらえきれず、よろよろ立ち上がり神楽坂へ近づいていった。
腹パンから回復していない嘔吐物まみれの七海は、神楽坂のわき腹にむけて杖で思いっきりフルスイングした。
わたしの目には杖に炎がまとっている様に見える。当たった瞬間神楽坂の身体は火柱に包まれた。
「ぎゃーー!!」
神楽坂は道の横に流れている川に吹き飛んでいった。
――ちょっと、二人とも頭おかしいんじゃない!
七海は藤崎に近づいて行き絶え絶えで言葉を伝えている。
「そ、そんな、や、や野蛮人、より、も、私と、組みましょ……う……」
――負けてられない! コイツラに比べたら私はマシよ!!!
わたしは七海を押しのけて藤崎に思いをぶちまけた。
「藤崎!!! あんた私と組みなさいよ! 組まないとどうなるかわかっている! とりあえず広場にあった素敵なカッフェでご飯おごりなさいよ!」
――違うの違うの私は一緒に冒険しよう! 後で素敵なカフェでご飯しようね! って言いたいだけなの。……でも藤崎はいつもどおり「はい!」って言ってくれるはず!
呆然と立ち尽くして私達を見る藤崎。
その姿はやっぱりカッコいい。学校で藤崎は上級生、下級生から絶大な人気があった。本人は自覚が無いけど。
同学年は恵比寿の策略でカースト底辺に落ちているから近寄る女はいない。
なんか弱気な感じがなくなっている。いつもオドオドしてて何か言いたそうにしてて言えない藤崎なのに……。
今は堂々として凛として、ヤバイ、本物の王子様だ!
恵比寿が心底嫉妬をするのもわかる。
いつの間にかずぶ濡れの神楽坂が戻ってきてた。
藤崎はわたし達を見ている。
その顔は感情がなく無表情を通り越して死人のような表情になっている。
「全員死ね」
わたし達に激震が走った。
――え、なに言われたの??? 弱々しい藤崎はどこ??? ていうか卍カッコいい!!!!クールすぎでしょ、やばやばやば!!
他の二人も恍惚とした顔になっている。
わたし達は言われた内容を理解していない。
ただ藤崎に見惚れてしまった。
藤崎は続けてわたし達に語りかける。
「いまさら何を言っている? お前らは俺に何をした?? バカにしていた、理不尽な暴力を加えていた、パシリにしていた、自分の体面のために利用していた、無視をしていた。そんな奴らを今更パーティーに加えろだ? 死んで出直してこい」
「俺にはこいつがいる」
藤崎はうさぎの頭を撫でてる。
うさぎは藤崎の身体を登り始めた。
藤崎の肩に足をのせて上から私たちを見下した表情でタブレットを取り出した。
「きゅ……!」
うさぎの口角が片方だけあがる。
ムカつく顔だ!
爪でタブレットをシュっとスライドする。
『ざまぁでございますわ!』
「きゅっきゅっきゅっきゅ」
笑ううさぎ。
うさぎはまたタブレットをスライドさせる。
『本当の孤独をわからない者にハルキ様を理解できませんわ。今まで自分達が、周りの人がハルキ様にしてきた事をよ〜く考えてご覧なさい』
私は否定する。
「わたしは違う! ずっと藤崎をみていた! 気にかけていた! そりゃぁ……うまく態度に出せなくて強く当たっちゃったけど……」
神楽坂は力強く胸を張った。
「私はただの照れ隠しだ!!!」
七海は焦点が定まっていない。
「あら、あら、あら、あら、いつ私とハー君は別れたの? まだ付き合ってますよ! そこのうさぎ……焼いてあげますわ……」
うさぎはドン引きした表情をしている。
藤崎は心底面倒くさそうな顔をしている。
「お前ら気持ち悪いよ……全員いらね……」
ショックを受けて混乱している私たちの元に駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「藤崎! またお前は女を泣かせているのか! この俺が許さん!」
取り巻きどもを引き連れた恵比寿がわたし達の前に現れた。




