これからふたりで
赤鬼退治を済ませた俺達は座り込んだ。
破壊された中庭からグラウンドへ続く通路である。
黄色うさぎの大群からのボスモンスター、真のボスっていうふざけた連戦だった。
転移してからまだ数時間。
このモンスターパニックは何だったんだ。
アリスがやっと起きてきた。
……回復してきたんだな。
そういやこいつも謎の生物なんだよな……
軽く話し合いすっか……
「おい、アリス。お前は何もんなんだ?」
「きゅ!」
タブレットを宙に取り出す。
うさぎは俺の体を背もたれにして膝の上でくつろいでいる。
タブレットに文字が書き込まれていった。
『そういう貴方様こそ何者でしょうか? 私は人族の国家「王都ライム」出身の……アリスですわ……。所属は王都高等魔術騎士学園、魔術科でございます』
……聞いた事無い国……魔術???
転移前から使えたのか。
「なんでうさぎに? いや、俺も自己紹介をしよう。俺は藤崎ハルキ。東京都出身、私立汐留高校と言う所に通っているただの学生だ」
そのまま続けて転移した状況を説明した。
まず、俺の嫌われっぷりを説明した。
学級裁判の後に白い空間に入った事。俺はパーティーがいない事。LPの事。
その後モンスターパニックが起こった事。
転移前と転移後の心の有り様が全く違う事。
……説明すると短いな。
『そうでしたか……。一般学園に通っていながら武術の教練をしていらして……皆様から良く思われていなくて……裏切りや罠にかけられる毎日で……。誰も信じられなくて……』
ちょっと大袈裟になっていないか。間違っちゃいないが……
「きゅ……」
アリスが泣いている。
優しいうさぎだ。
アリスは泣きながら俺に状況を説明した。
アリスは普通に暮らしているだけで、全てのものから悪者だと認識されていた。
アリスが裏で全ての悪事を操作していると言われた。挙げ句、偽善勇者に目を付けられたり……
最終的に学園でアリスの追放裁判が行われていた最中だった。
追放とは名ばかりのほぼ死刑であった。
そんな時に異世界転移が起こった……
何故かうさぎになっていた……
俺より全然ヘビーじゃねか……
「ま、まあ、泣くな……。お互いボッチだったのにパーティー組めたしな」
ハンカチをそっと渡す。
アリスは涙と鼻水を拭く。
『ヒック……、びゃ、い』
「しかし全く違う世界の人間が転移しているとは想像もしていなかった。アリスの学園の奴らもいるんだよな……」
『はい……あの光はあの学園の全てを包みましたわ。パーティー申請画面もありましたので確実にいるかと思われます』
――面倒な自体になりそうだな。俺もだけどな……
『……私はボーナス0ポイントでした……そしてハルト様がおっしゃていたLPは1しかありません』
「L、LPが1しか無いの!?」
『学園の他の生徒は調べなければわかりません……。もしかしたら皆様LP1かも知れませんし、1〜10までばらつきがあるのかも知れませんわ』
――なんか理由があるのかもな……
「何故俺たちが転移したのか、何故アリスがうさぎになったのか。何故俺の心が変化したのか、何故「塔」ってやつを攻略しなけれがいけないのか、何故俺たちがボーナス0ポイントなのか……」
「色々あるが……とりあえず現状は「塔」ってやつを攻略するしか無い。少しづつ謎を解明していこう」
アリスは俺の顔を心配そうに覗き込む。
この子は俺と一緒で人に対して恐怖に近い感情を抱いているのだろうか? いつ裏切るのか? 信用した瞬間に捨てられるのか? そんなことを思っているのだろう……
「人と行動することが怖いですわ……さっき戦っているときは全然なんとも思いませんでしたのに……』
俺はアリスを持ち上げて半回転させ向かい合う。
子供に高い高いしているみたいだ。
「多分だけど、俺とアリスは似ているのかも知れない。状況も性格も。今はとりあえず深く考えずに一緒に戦っていればいいと思う。確かに戦っているときのアリスは迷いがなかった」
俺は微笑みながらアリスに言った。
「まあなんだ。出会ってまだ少しだが今後ともよろしく頼む」
『こちらこそよろしくですわ!』
アリスは俺の手の中で手足を嬉しそうに振りながら、キュートな笑顔で「きゅっ!」と鳴いた。
アリスのタブレットが警告音を上げた。
「モンスターパニックが終了いたしました。退避していない方は自動的に1層まで転移いたします」
――あ、まだ色々話す事があるのに……
光りに包まれる。
俺たちは離れないように抱きしめながら消えていった。




