古都シーカ
少女を追い掛けて行くと町まで辿り着いた。木造の家々が点在し、とても発展しているとは言えない所であった。
「ぜぇ…ぜぇ…」
町の前で息を整えていると1人の女性が声をかけてきた。
「あら?どうかしましたか?」
青いロングヘアーを靡かせ、着物に身を包んだ美しい女性。その女性が透き通るような笑顔でこちらに微笑みかけながら尋ねてきた。女性からの問いにアザーが
「この町に拙者の剣を盗んだ奴が走っていったからそれを追いかけてきたんや」
と応えた。疲れと怒りのせいか順序がめちゃくちゃになっているアザーの代わりにクロが紹介と挨拶をした。
「初めまして。僕たちは彼と同じチームを組んでいる者です。クロと申します。そして、彼が総長のアザー、そして左から順にドグ。」
「どうも!」
「セイカ。」
「…。」ぺこり
「ルーペ。」
「どうもです。」
「アーナ。」
「初めまして!」
クロに紹介された一行は順に頭を下げ、各々挨拶を済ませた。女性はそれに返すように
「これはこれはご丁寧にどうも。私の名前はシキ。この町の長をしています。」
と丁寧に自己紹介してくれた。続けてアザーの言っていたことを解決するかのように1人の少女を呼び寄せた。
「そして多分剣を盗んだのは…マリア!出てきなさい。」
そうシキに言われたマリアは木陰から顔を出した。アザーの剣を盗んだ少女、名前はマリアというらしい。シキのことがよっぽど怖いのか、盗んだことを怒られて暴力を振るわれるのが怖いのかはわからないが、マリアは涙目になりながらシキの隣へ歩んできた。
「あぁ!!!てめぇ、よくも拙者の剣を!!!」
アザーが憤りながら言うとすかさずシキが
「すみません。この町にはこの子と同い年くらいの子が居なくて、よく町に来た同年代の冒険者さんに悪戯をしてしまうのです。」
と謝りつつも、厄介なことがあることを知らせた。
「なるほどな!」
アザーは納得したのか剣を受け取った。
「マリア、冒険者さん達に何か言うことはないのかい?」
「…ご、ごめんなさい。」
シキに諭され、マリアはアザーたちに謝罪した。無事に剣が戻ってきて安心したアザーはもちろん、事情を聞いた一行は快く許すことにした。
そんなやり取りをしたあと、ルーペが皆の疑問を代弁する形で質問を投げかけた。
「シキさん、1つ聞いてもいいですか?」
「はい。何でしょう?」
「マリアさんと同年代くらいの子が居ないって、どうしてです?」
もっともな疑問だとシキは頷いた。そしてこちらを見ている一行を一瞥すると説明を始めた。
「それは…この町の近隣にアイホートと言う邪神が住んでいて、1年に1度15、6歳くらいの少女を生贄として捧げなければならないのです。歯向かえばこの町を滅ぼすという警告もありました。そして今年はマリアがその生贄となります。」
そんな理不尽な状況に置かれていること、今年はマリアがその順番にあることをこと細かく説明した。
「おい!なんでやねん!何とかできひんのか!?」
ドグは怒りを顕にしていた。ドグだけではない、言葉を発さずとも、思いは皆同じなのだから。
シキはその言葉に反論した。
「何度も試みましたよ!これでも私は町長、町の子たちをほいそれと邪神なんかに渡したくありません。しかし…私一人の力ではどうにもなりませんでした。次の生贄を捧げる日ももう迫っています。私にはどうにもできないんです。」
どうにかしたいのはこちらの方だと言わんばかりに大きな声を上げた。横にいたマリアは少し怯えているようにも見えた。
シキは失礼と一言謝ったが顔の険しさは尚続いていた。そんなとき思いもよらない言葉が聞こえてきた。
「そのアイホートってのはどのくらい強いんや?」
「え…。」
シキは耳を疑った。これまで様々な冒険者がやってきたが、話を聞くなり黙り込み、結局はそのまま町を後にしていたからだ。
「そのアイホートがどのくらい強いのかと、シキさん、あんたがどれくらい強いのかを教えてくれ。」
シキは驚きを隠せなかった。だが、質問に応えねばならぬと冷静になり応えた。