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 ティータイムになって、言われたとおり庭に向かうと、バラのアーチの下のテーブルに、お父様とお母様、後ろにクラウスが揃っていた。


「ルーちゃん、さっぱりした?」


 席に着くと、お母様が、私の分の紅茶を入れながら聞いてきた。


「はい。おかげさまで」


「そう、よかった。ほら、紅茶を飲んで。これからのことを話しましょう」


「はい」


 大丈夫。3人を信じるって決めたから。


「ロラン殿下との婚約だけど、お母様も婚約は取り下げたほうがいいと思うの」


 ……

 …………

 よし、帰ろう。


 ガタっと音を立てて、席を立とうとすると、お母様に手を握られた。


「ルーちゃん、ちゃんと聞いて」


 真剣な顔でじっと目を合わせてくる。


「……だって。……好きだって言ったのに……お母様がなんとかしてくれるって言ったのに……」


 目線を外せなくて仕方なく席に着くが、ふてくされた子どものように責める言葉ばかりが出てくる。


「ルーちゃんの気持ちはよくわかるわ。でも、お父様もクラウスも言っていたと思うけど、ロラン殿下が拒んでいるのに無理を通せば、結婚はできるかもしれないけど、好きになってもらうことは難しくなる」


 お母様は、優しく手を撫でながらも、目線は外さない。


「ルーちゃんも、側にいるのに、ずっと嫌われる。そんな結婚はイヤでしょう?」


「……はい」


「ロラン殿下には、婚約は取り下げるけど、婚約者候補として扱って欲しい。これから1年間、噂ではなくルーちゃん自身を見て、婚約者とするか判断して欲しいと伝えましょう。1年後に、隣に立つのにふさわしくないと判断するなら身を引きますと」


「1年間ですか?」


「そう。ルーちゃんも、伯爵家に生まれたからには、16か、遅くても18までには結婚して、世継ぎを産むのが最低限の義務、ということは話してあるわよね?」


 お母様が首をかしげる。


 ……

 そうなのかー。16で結婚とか、考えたこと無かったけど……それどころか、その前の20数年の人生でも考えたこと無かったけど……


 でも、これだけ恵まれた立場にいるなら、その分の義務も発生する、そんなものなのかな。


「はい。わかっております」


 思ったよりも、しっかりと答えが出た。

 覚悟とかはまだ全然だけど。


「よかったわ。それでね、ロラン殿下もルーちゃんも今14だから、1年後に婚約者を決めるっていうのは、16に結婚するための、私たちがギリギリ待てる範囲なの」


 お母様は、少し余裕がでたのか、私の手を離し、席にもたれかかると、紅茶をスプーンでクルクルかき混ぜながら続けた。


「はい」


「それから、これは聞きたくないかもしれないけど、1年後に、ロラン殿下がルーちゃんを選ばなかったときのことも考えなくちゃいけなくて」


 お母様は、ちょっと困った顔になりながらも話を続ける。


「本当は少し先の予定だったんだけど、親戚から、ザリア領を継がせる予定の子を呼び寄せます。それからウインザー公爵の息子さんにも婚約者候補として声をかけます」


「え、無理です!」


「ルーちゃん」


 お母様は、少し厳しい顔で私の名前を呼ぶ。


「無理です!」


 泣きそうになりながら、拒む。


「……ルーちゃん。ロラン殿下には、貴方のことしっかり見て欲しいって頼むのに、自分が逆の立場になったら、それはできないって言うの?」


「そんなつもりじゃ……でも、お母様……」


 懇願するような目でみるが、お母様の目は揺らがない。


「とにかく、これは決定事項です。……できれば、この2人のことも、きちんと見て、向き合ってあげて」


 お母様に優しく見つめられて、なにも言えなくなった。


「……ほら、ルーちゃん、朝ごはんからなにも食べてないから、お腹が空いたでしょう? このスコーン、食べなさい。それから、あなた。……さっきから黙ってばかりだけど、あなたからもなにかないの?」


 お母様がお父様を振り向く。

 お父様……あまりに発言がないので存在を忘れてたよ。


「スコーン、美味いな」


 ……お母様がいるとポンコツなのか? 怖い顔にもだんだん慣れ、目を合わせると頷く姿にほっこりした。

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