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「ルーちゃん!」


 マデレーン夫人は、勢いよくドアを開けると、私を強く抱きしめ、私を見つめながら髪を丁寧に撫でてくれた。

 さすがルクレツィアのお母様、迫力ある美人さんです。この瞳で睨まれたら、誰もが震えながら膝をついてこうべを垂れるだろう。


「かわいそうに。こんなに泣いて……大丈夫。お母様に任せなさい! ロラン殿下は、わたくしが必ず、今の地位から引きずり下ろして、2度とルーちゃんを傷つけられないところまで追い込むから!」


 いや、あの、引きずり下ろすとか、追い込むとか、笑顔で言われると、逆に怖いんですが……


「お母様、これはお父様が……」


 少し冷静になった私は、お嬢様らしい(?)態度に戻り、今までの経緯を説明する。


「……あなた」


 マデレーン夫人は、振り向くと、冷たい視線をザリア伯爵に向けた。


「……すまん」


 ザリア伯爵は、頭を下げて謝った。


「やっと部屋から出てきた娘を、ここまで泣かせるとはどういうことですか? いつもいつも、手に負えなくなってから私に助けを求めるのは、やめてください」


「……すまん」


叱られるたびに頭がどんどん下がる。


「すぐ落ち込まない!」


「……すまん」


 ザリア伯爵、私と話していたときとは別人みたい。さっきから、すまんしか言ってない。あんなに背が高いのに、今はずいぶん小さくみえる。


 でも、そっか、どうしていいかわからなくてフリーズしてたのか。今も、顔が怒ってるように見えるだけで、落ち込んでたのか。家を追い出される訳ではないのかな? ……よかった。


 緊張が少しとけ、ひとつ、ため息が出た。


「それから、クラウス!」


 マデレーン夫人のお叱りは止まらない。今度はクラウスを睨む。


「はい。マデレーン様」


 後ろに控えていたクラウスが前に出る。

 緊張しているのか、さっきより顔色が悪い。


「あなたもやり過ぎです。どんなときも常にルーちゃんに寄り添うべきあなたが、ルーちゃんを傷つけてどうするの」


「ですが……いえ、申し訳ありません」


 クラウスも頭を下げる。


「言い訳しようとしない!」


「……申し訳ありません」


 こちらもどんどん小さくなる。ちょっと震えてる?

 …しつけの良い犬が、耳と尻尾をペタンとして震えているように見えてきた。


「あなたも、そうやって、すぐ落ち込まないの!」


「……申し訳ありません」


 クラウスも落ち込んでいたらしい。

 マデレーン夫人は、ひとしきり2人を叱ると満足したのか、私を振り向いて言った。


「ルーちゃん。このままでは、せっかくの美人さんが台無しだわ。ここはお母様にまかせて、お風呂に入ってきなさい」


「え?でも、まだお話が……」


「大丈夫、大丈夫。ほら、あなた。侍女を呼んで!」


 ザリア伯爵は、慌ててベルを鳴らす。


「じゃあ、ルーちゃんは、ゆっくりお風呂に入って、着替えて……そうね、ティータイムになったら、お庭に来なさいな。それまでに3人で話し合っておくわ。あ、そうそう、お風呂には、バラの香油を入れるのよ?ルーちゃんには、華やかなバラの香りが似合うもの」


「あの、でも……」


「大丈夫! お父様もお母様も、クラウスも。ルーちゃんのことが大好きなんだから。ルーちゃんが一番幸せになれるように考えるから」


 マデレーン夫人の視線は揺るぎない。

 振り返ると、ザリア伯爵も、クラウスも頷いてくれた。


 マデレーン夫人……いや、こんなに親身になってくれるこの人が、この世界の本当のお母様なんだと、初めてしっくりきた。胸が暖かくなる。ザリア伯爵……お父様も、クラウスも、言葉はきつかったけど、確かに私のことを考えてくれている。


「……わかりました。では、一旦、失礼します」


 お母様、お父様、それからクラウスを信じよう。

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