表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/66

10

 ロラン王子は、一歩前に出ると、陛下に向けて、静かに話し出した。


「……この捕縛騒動に、どれだけの理があるのかと、先ほどから黙って聞いておりましたが、ルクレツィアの言葉が真実であるなら、捕縛してまで、このように責める道理はないように思います」


 ロラン王子は、ゆっくりと近づいてきて、私を立ち上がらせると、優しく縄を解いてくれた。


「そして、この1年余りの間、ルクレツィアを見てきた私が保証しましょう。彼女は、嘘をつくような人間ではないと」


 ロラン王子は、振り返ると、陛下に、そう断言してくれた。


「ロラン殿下……ありがとうございます」


 ロラン王子が、信じてくれている。……ホッとしたら、膝から力が抜けて、崩れ落ちそうになった。ロラン王子は、私を片腕で支えると、私だけに聞こえるように、顔を近づけて、声をかけてきた。


「大丈夫か? ……災難であったな」


 顔が赤くなるのが、自分でもわかった。ロラン王子が隣にいてくれるなら、どんな困難も乗り越えられる。そう強く思った。


 ……

 …………


「ッ! ロラン様! 私よりルクレツィアを信じるって言うのですか? 私が、嘘をついているとでも?」


 しばらく見つめ合っていると、陛下の隣で、ずっと黙って俯いていたはずのアメリアが叫んだ。振り向くと、こちらをきつく睨んでいるのが、わかった。


 アメリアの怒りを感じて、思わず、ロラン王子の服の袖を掴む。ロラン王子は、大丈夫、というように支えている腕に力を込めた。


「そうではない。お互いに、不幸なすれ違いがあったのであろう。ルクレツィアは、迫力があるからな。私を、……コホン、……その、慕っていると。そう言われて、近づかないように圧力をかけられた、と思うのも、無理はない」


「だが、ここまで大事にすることもなかろう。ここは、私に免じて、引き下がってはくれぬか?」


 ロラン王子は、アメリアに、真摯に話しかける。庇ってくれているのが夢のようで、ロラン王子の顔をぼうっと見つめてしまった。


「……信じない」


 突然、アメリアがなにかを呟いた。


「え?」


 思わず、素で聞き返すが、アメリアには聞こえていないようだ。


「こんなこと、……信じない! ……主人公は、私なのに! なんでロラン王子が、そっちの味方につくの?! なんで、ロラン王子に、魅了の魔法が効かないの?!」


 アメリアが叫ぶ。

 ……え? 今、主人公って言った?


「……もういい! 振り向いてくれないなら、全部いらない! 陛下、あの2人を捕まえて!」


 アメリアの思いがけない発言に、混乱している間に、事態はまた動き出す。


「……2人を捉えよ」


 陛下は、アメリアの言う通りに、命令を出す。


「陛下! 息子の私を、理由も無く、捉えると仰るのですか!」


 ロラン王子は、目を見開いた後、陛下に向かって叫ぶが、陛下は反応しない。……さすがに、これは、おかしい。小声で、ロラン王子だけに聞こえるように、話しかける。


「ロランさま。……私だけならともかく、ロランさまを捉えようとするなんて、正常な判断が出来ているとは、とても思えません。一旦、ここから逃げましょう」


 ロラン王子は、私を一瞬見た後、逡巡するように言った。


「しかし、……陛下になにかあれば、国が揺らぐのだぞ。このような状態の陛下を置いて、このまま逃げるわけにはいかぬ。……それに、情けないが、ここには第3騎馬隊の兵士たちがおる。一対一なら負けぬが、この人数ではな……」


 ロラン王子は、悔しそうに顔を歪めた。兵士たちは、さすがに王子を捕まえるのは気がひけるのか、ジリジリと距離を詰めてくるが、手を出そうとはしてこない。


 このままでは、2人とも捕まる。そう思って、私は、覚悟を決める。


「ロランさま。……ロランさまになにかあれば、それこそ、次世代の国が危うくなります。……私が盾になります。どうか、ここから逃げることだけを、考えていただけませんか?」


 ロラン王子だけでも、逃げてもらおう。元々、全てを背負うつもりで、ここに1人で来たのだ。ロラン王子に信じてもらえて、庇ってもらえて。私の想いは、もう充分報われた。


 支えてくれていたロラン王子の腕をゆっくりと離し、一歩前に出て、ロラン王子を守るように立つ。


「ッ! そなただけ残して、逃げるなどしたら、自分を一生許せん! できるわけがなかろう!」


 ロラン王子は、私の背中に向かって叫ぶが、私は振り返らずに答える。


「ロラン殿下……国の為に、今は堪えてくださいませ。アメリア様、1番気に入らないのは、私でしょう? 早く捕まえたらいかが?」


 薄く笑って、アメリアを挑発する。


「ッ! 貴方達、なにをしてるの! 早く捕まえなさいよ!」


 アメリアの発言に、兵士たちは、しぶしぶ動き出す。……捕まる! そう思ったとき、大広間の扉が開いて、割れんばかりの咆哮が轟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ