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「ルクレツィア=ザリア伯爵令嬢、降りろ!」


 王都騎馬隊のオリバー隊長に命じられ、馬車を降りた。周りを見渡すと、初めて使う小さなドアの前にいた。使用人のための、通用門のように見える。


 馬車に揺られている間、捕縛されている姿を晒しながら歩くのだろうと、覚悟していた。人通りの少ない場所を通るのは、正直有り難いが、どういうことだろう。


 不思議に思っている間にも、騎馬隊の兵士たちが、私の前後に配置され、オリバーの号令で歩き出した。


 ……

 …………


 おかしい。無言のまま、歩き続けるが、普段は人の多い王城内で、ここまで誰にも会わないとは。もしかして、オリバーは、秘密裏に動いているのか。それとも、あらかじめ人払いをしてあるのか。


 いずれにせよ、この捕縛命令が、公の手続きを踏んでいるものなのか、私の中で、むくむくと疑問が湧いてきた。


 いいかげん疑問が強くなって、口に出しかけた頃、重厚なドアの前に着いた。兵士たちが、その重厚なドアを開けると、急に眩しく輝く大広間に出た。謁見の間だ。……謁見の間に出るのに、こんな裏道があったとは。


 前を向くと、陛下と、アメリア、それからいつもより無表情な、ロラン王子が目に入った。


 ロラン王子を見つけたとき、大好きなロラン王子に、こんな姿を見られたくないと、急に、強く思った。


 思わず、俯いて泣きそうになるが、ザリア家のためにも、ここで自分に負けるわけにはいかない。涙をぐっとこらえて、顔を上げる。よく見ると、他の閣僚級も、何人か後ろに控えているが、人数は少ない。


 止まっていると、オリバーが、後ろから乱暴に押してきた。広間の中央に進め、ということらしい。押されたときに、ロラン王子が、少し動いた気がしたが、幻覚かもしれない。


 大人しく中央に進み、跪いて目を伏せる。手は縛られたままだ。


「ルクレツィア=ザリア伯爵令嬢、そなたには、王国が保護するアメリア嬢に対する誹謗中傷、および、それにより王国の威信を傷つけた反逆罪の疑いがかかっておる。なにか、申し開きは、あるか?」


 陛下が、直接、私に声をかけてきた。……ここに来るまでは、いつもはお優しい陛下が、私の捕縛命令を出すなど、なにかの間違いではないかと思っていたが、その希望も消えた。


「……身に覚えは、ございません」


 暗くなる気持ちをなんとか奮い立たせ、目線を上げる。冷たく見下ろしてくる陛下に、心が折れそうになるが、しっかりと目を合わせて、それだけ、はっきりと答えた。


「嘘を申せ! アメリアから聞いたが、そなた、アメリアの奉仕する教会に、わざわざ出向き、アメリアに圧力をかけたそうではないか」


 陛下が厳しい声で、畳み掛けてくる。アメリアの肩を持つ気満々の言い振りに、気が重くなるが、出来るだけ誠実に答える。


「確かに、アメリア様の奉仕する教会には、1度だけ訪れたことがあります。話の流れで、私がロラン殿下の婚約者候補であること、それから、私……私が、ロラン殿下をお慕いしていることを、お伝えしました」


「アメリア様が、それを圧力と感じられたなら申し訳ありません。でも、私には、そのような意図はありませんでしたし、その後はなんの接触もしておりません」


 途中、少し恥ずかしくて言いよどんでしまったが、事実を出来るだけ正確に伝えたつもりだ。静かに陛下の言葉を待つ。


「今の言葉、聞いたであろう? アメリアの言ったとおりではないか! お前たちもそう思うであろう?」


 陛下は、言葉尻を捉えて、鬼の首を取ったように声を上げる。閣僚たちは、陛下に合わせ、皆一様に頷いている。味方のいない状況に、歯を食いしばりながらも、血の気が引くのは、止められない。これは、思ったよりも、状況が悪いかもしれない。


「ロラン、そなたはどう思う?」


 陛下は、続けてロラン王子を振り返り、尋ねた。私も、一縷の望みをかけて、ロラン王子の反応を待つ。ロラン王子は、静かに一歩前に出ると、口を開いた。

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