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7:クラウスの戦い(2)

「……ひとまず、相手が魅了の魔法を使っているものとして、対策を考えよう」


 しばらく呆然とした後、オレは、そう切り出した。


「いいのですか? 政敵の策略かもしれませんよ?」


 ルイ先生は、念を押す。


「政敵の動向は、ザリア伯爵も夫人も把握されているはずだ。……もし、危険な動きがあったら、隣国訪問の前に、教えてくださるだろう」


 オレ自身、考えをまとめながら、そう話す。


「隣国訪問を渋っていたのは、不穏な空気を感じていたせいかもしれない。だが、そういった話を、なにもせずに出発されたということは、1週間前には、少しの兆候もなかったということだと思う。ここまではいいか?」


 ルイ先生と、エドワード様、オスカーに確認し、皆、頷いた。


「そうすると、たった1週間で、穏健派の陛下に、ここまでの行動をさせたということになる。……オレには、魔法以外で、そんなことができると思えない」


「そうかもしれませんね……少々、根拠が薄いですが、今はスピード重視で、納得しておきましょう」


 オレの判断に、とりあえずルイ先生も同意する。


「ということで、ルイ先生。……まずは、魅了の魔法というものが、どんな魔法なのか、それから、気をつける点があるかを、教えてくれるか?」


「わかりました」


 ルイ先生は、1つ咳払いをすると、授業のように説明を始めた。


「光魔法の1つ、魅了の魔法は、闇魔法の支配の魔法と対になるものです。支配の魔法が、対象の否定的な感情を利用して、思考誘導するのに対して、魅了の魔法は、対象の肯定的な感情を利用します」


「……もうちょっと、わかりやすい言葉で話してくれるか?」


 エドワード様は頷いているが、オレにはピンと来なかった。オスカーも首をひねっている。


「要は、魅了の魔法にかかると、アメリア嬢が好きになり、好きな人の願いだから叶えてあげたい、と思うようになるのです」


 なるほど。急にわかりやすくなった。


「魅了の魔法は、使わないときでも、持っているだけで、相手に好意を持たせることができます。会う回数が増えるほど、だんだんと効果が強まるので、注意が必要ですね」


 ルイ先生の説明を聞いて、1つ疑問が浮かんだ。


「……待ってくれ。オレもアメリアに会ってるんだが、大丈夫なのか?」


 聞きながら、急に不安になる。


「会ったとき、運命の人に出会ったような、ときめきを感じましたか?」


 ルイ先生が、真顔で聞いてくる。


「いや、ないな。……可愛い子だなとは思ったが」


「……えっ? クラウス! ルーの敵なのに、可愛いと思うなんて、信じられない!」


 正直に告げると、それまで黙っていたエドワード様が、驚愕の表情で叫んだ。


「いやいや、普通だろ。街で可愛い子を見かけて振り返る程度の話だから。エドワード様だって、あるだろ?」


「ルーがいるのに、街で振り返ったりしないよ! クラウスの不潔!」


 しまった。正直に言い過ぎて、墓穴を掘ってしまったようだ。ルイ先生に、視線で助けを求める。


「そうですね。……危険なので、クラウスを幽閉しましょうか」


「えっ!」


 怒っていたはずのエドワード様も含めて、皆の視線がルイ先生に集まる。


「冗談です」


 ルイ先生の言葉に、力が抜けた。ルイ先生から初めて聞く冗談が、この局面とは、笑えない。乾いた笑いを返すと、ルイ先生は、顔を若干赤くして、咳払いをした後、話しを進めた。


「コホン、……クラウスは、問題ないと思います。魅了の魔法は、効果がもっと劇的に出るはずですし、会ったのも1度ですよね?」


 確認され、頷く。


「大丈夫だと思いますよ」


 ルイ先生にそう言われて、ホッと一息つく。


「疑いが晴れてよかったよ。それに、魅了の魔法のことも、だいたい分かった。会う頻度が高そうな人物は、敵の手に落ちてる可能性があって、要注意ってことだな。……ちなみに、その魔法は、解くことができるのか?」


「基本的には、本人以外には難しいですね。永い時を生きているグリューに聞けば、あるいは」


「厳しいな……」


 ルイ先生の答えを聞いて、思わず呟く。グリューを迎えに出したのは、失敗だったかもしれない。


「……こうして悩んでいても仕方ない。まずは、敵の手に落ちてる可能性が高い人を、絞り込もう」


 そう提案すると、ルイ先生は、じっとオレを見つめて、それから言った。


「わかりました。……ところで、今日はずいぶんと、話し方がラフですね」


 ルイ先生に言われて、初めて気付いた。


「あー、……焦ると、こうなるんだよな……里が知れるよな……すまん」


 頭をかきながら、自嘲気味に答えると、ルイ先生は、にっこりと笑って言った。


「そんなことないですよ。いつもの取り繕っているような口調より、私は好きです」


「そっか……まあ、今は、このままでいかせてくれ」


 ほおを膨らまして、そっぽを向いているエドワード様はともかく、ルイ先生、オスカーは、頷いてくれた。こうしている間にも、時間はどんどん過ぎていく。悩んでいる暇はない。

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