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「オリバーさま、お待たせしたしました」
王都騎馬隊を待機させている部屋を訪れ、準備が出来たことを報告する。着ている服は、全身が白地の、絹で出来たワンピースだ。よく見ると、刺繍が至る所に施されていて、気品を感じさせるが、宝飾品は付けず、華美になり過ぎないよう、気をつけた。髪は片方にまとめて、前に流している。
部屋に入り、淑女の礼をする。雑談をしていた兵士たちが、一瞬で静かになる。伏せていた目を上げると、ほとんどの兵士が、固まっているのがわかった。顔を赤くしているものさえいる。
「あの……?」
せっかく強い決意をもって部屋に入ったのに、放置されるという状況に戸惑い、隊長のオリバーに目線を送る。
オリバーは、ハッとした後、立ち上がり、威厳を見せつけるかのように、腰に手をかけ、話し出した。
「さすが、美しさだけは評判の高い、ルクレツィア伯爵令嬢だ。今までは、その美貌で、どんな人間でも言いなりだったんだろうが、今回ばかりは相手が悪すぎたな。ハッ、……お前の栄華な人生も、これで終わりだな」
美貌で誰かを言いなりにした記憶はないが、下手に反論しても、面倒なだけだ。ただ、静かに目を伏せる。
「チッ……おい、お前たち。呆けてないで、さっさと捕縛しろ!」
オリバーは、煽っても無駄だと悟ったのか、兵士たちに、横柄に指示を出す。兵士たちは、誰もやりたくない様子で、全員がそれぞれの顔を伺っている。
「早くしろ!」
オリバーの怒号を受けて、やっと1番近くにいた兵士が、私の前まで来て、のろのろと、手に縄をかける。縄で手が擦れないように、気を使ってくれているようだ。
「……ありがとう」
その兵士だけに聞こえるように、お礼を言った。
「……すみません」
縄をかけていた兵士は、消え入るような声で謝った。
「できたら行くぞ!」
オリバーの号令により、私の前後を兵士が挟むように部屋を出て、歩き出した。エントランスには、家の使用人のほとんどが集まっていた。皆、私の手の縄をみて、一様に息を呑み、すすり泣くもの、兵士たちを睨むもので、エントランスは、一種、異様な雰囲気になった。
「ルー!」
エドワードが、今にも、兵士たちに襲い掛かりそうな様子で、叫んだ。隣のクラウスが抑えていなかったら、飛びかかっていてもおかしくない。
そのクラウスも、目線で人を殺せるなら、こんな感じだろうという様子で、歯を食いしばりながら、兵士たちを睨んでいる。
「エド、クラウス……ザリア家を、守ってね」
2人にそれだけ言って、前を向いた。内心は不安でたまらないが、折れない姿勢を皆に見せ、前向きに行動してもらわなければ。
「止まるな!」
オリバーに、背中をグイッと押されて、思わず転びそうになる。
「……貴様!」
「大丈夫」
クラウスが、そう言って、思わず一歩踏み出すのを横目に見て、そう言って止めた。ここで、クラウスも捕まるようなことは、あってはならない。
姿勢を正し、しっかりと前を見て、皆の前を一歩ずつ進んでいった。




