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 お父様とお母様が、隣国へ旅立ってから、1週間ほど経ったある日の朝、事件は起こった。ザリア家の玄関が、突然、騒がしくなる。


「お待ちくださいませ! 領主さまが不在のときに、このように乗り込まれても、困ります!」


 ザリア家の侍女が、必死に止める声が聞こえた。


「召使いどもに構うな! ルクレツィア=ザリア伯爵令嬢が、ここにいるのはわかっている。お前たち、屋敷中を探索しろ!」


 横柄に叫びながら、ずかずかと10人ほどの王都騎馬隊を名乗る男性たちが押し入ってきた。ザリア家の侍女たちが止める声も聞かず、手当たり次第、部屋を開け始める。


「王都騎馬隊第3隊長、オリバーだ! ルクレツィア=ザリア伯爵令嬢、王国が保護するアメリア嬢に対する誹謗中傷、および、それにより王国の威信を傷つけた反逆罪のかどにより、捕縛命令が下っている。大人しく、出頭せよ!」


 オリバーは、私の罪名を、声を張り上げて告げた。あまりの喧騒に、2階の私室にいた私は、慌てて廊下に出たが、このまま出ては、相手の思う壺だ。一旦、深呼吸をし、出来るだけ落ち着いて見えるように、エントランスの螺旋階段を降りた。グリューは、唸りながらついてくる。


 螺旋階段の手すりを持つ手が震える。そのとき、ダイニングルームのほうから、クラウス、エドワード、ルイ先生が、走って向かってくるのが見え、弱気になりそうな心を奮い立たせた。……とにかく、皆を守らなければ。


「家を荒らすのは、おやめください。……私が、ルクレツィア=ザリアです。領主のエドモンド=ザリアは、陛下の命により、隣国を親善訪問中です」


「このようなタイミングでの捕縛命令とは、聡明な陛下のすることとは、思えません。正式な訴状は、お持ちでしょうね」


 螺旋階段の途中に留まり、精一杯の威厳を保って、オリバーを見下しながら、冷たく問い詰める。


「くっ……こちらが、訴状だ。不満があるなら、陛下の御前で釈明してもらおうか。納得したら、大人しくついて来い!」


 オリバーは、一瞬怯んだ後、訴状を広げて、仰々しく見せつけてきた。……確かに、残念ながら、陛下の印章のついた、正式な捕縛命令に見える。


「確かに。……わかりました。ただ、陛下の前に、このような姿で出るわけには、参りません。どうか身支度をさせては、いただけませんか?」


 先ほどとは違って、少し柔らかく聞いてみる。お父様、お母様が戻るまで、まだ時間が掛かるが、とにかく少しでも時間稼ぎをしたい。それに、一応、夜着から着替えているとはいえ、実際、陛下に謁見するには、気軽すぎる服装なのも確かだ。


(面倒な。ここにいる兵士全員、我が倒せばいいであろう)


 グリューが、そう言って唸り声を上げながら、元々の威圧感たっぷりのグリフォンの姿に変わった。一声吠えると、地響きのような迫力に押され、兵士たちは、後退りして武器を構えた。


「お、お前たち! お、王国に背くつもりか!」


 オリバーは、腰が引けながらも、武器をこちらに向け、叫んだ。


「グリュー。この人たちを倒しても、問題は解決しないわ。……今は、堪えて」


 私は、グリューの隣に行き、喉を撫でる。グリューは、唸りながらも、大人しくなってくれた。


「オリバーさま、失礼しました。私も、グリューも、王国に背くつもりは、ございません。どうか武器を収めていただけませんか」


 出来るだけ、誠意を込めて、頭を下げる。


「……よかろう。早く、準備とやらをしてこい!」


 オリバーは、青い顔のまま、気を取り直すと、尊大に許可を出した。私は、侍女たちに、兵士をもてなすように指示を出す。途中、クラウスと目が合い、私の部屋に来るように目配せした。


 突然のことすぎて、いいアイディアは、なにも浮かばない。だけど、皆を守るために、出来ることをしなければ。固い決意を心に秘め、暗い未来の予感を振り切るように、力強く上を見つめながら、階段を登った。

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