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「あの……刺してきた方は、今どこに?」
気になって、聞いてしまった。
「彼女のご両親をお呼びしてね。今回の件は、お互い問題にしないということで、引き取ってもらったよ。彼女は、しばらく遠方の親戚の家で、静養させるらしい。……可哀想なことをしちゃったね」
レオノールは、遠くを見ながら言った。
「刺されたのに、ずいぶんと、お優しいんですのね?」
不思議に思って、聞いてみた。
「……片想いの辛さは、私も、よくわかるから」
レオノールが、急に真顔になって、私をじっと見つめてきた。目が合って胸が苦しくなる。……ふと、レオノールは、繋いでいた手に視線を落とし、ブレスレットを触ってきた。
「……増えたね」
思わず、手を引いて、エドワード、クラウスとお揃いのブレスレットを隠す。後ろめたいはずもないのに、うまく答えられなくて、目を伏せる。
「あの、……これは、別に……」
「ああ、……責めてる訳じゃないよ。ルーが魅力的なのは、仕方ないよね」
思わず言い澱む私に、レオノールは、笑顔で話を流した。
「私も、……と言いたいところだけど。もうちょっと、ちゃんと、……身辺整理できたらね」
「え?」
「なんでもないよ」
最後のほう、レオノールの声が小さくて、よく聞き取れなかった。聞き返したが、この話は終わりだとばかりに、手で制されてしまった。
「傷跡は、残るのでしょうか……」
それよりも、包帯の巻かれている腹部を見ながら、つい聞いてしまった。美しいレオノールに、傷跡が残るなんて考えられない。
「そうだね。怪我が治ったとしても、傷跡は残ってしまうだろうね」
レオノールは、淡々と答えるが、ショックじゃないはずがない。
「そんな……あの、アメリアに癒してもらうことは、できないのでしょうか」
私が提案するのも違う気がするが、癒してもらえるならば、アメリアに頼んでみてもいい気がする。予約制になったと言っていたが、レオノールが頼めば、早めに診てもらうことも、可能だろう。
「アメリア……光魔法の使い手ね。確かに、彼女に頼めば、傷はたちまち消えるだろうね」
レオノールは、私の提案を肯定する。
「以前の私なら、頼んでいたと思うけど。今は、……今は、この傷の痛みを感じながら、自分の至らなさについて、考えたい気分なんだ」
「ルーに会っていなかったら、すぐにアメリアに頼んで、今回のことは、嫌なこととして、すぐに忘れたと思うよ。でも今は、刺すしかなかった彼女のこと、わかる気がするから。……彼女との想い出を、どうすれば間違わなかったかを、ゆっくり考えたいんだ」
レオノールは、力が抜けたように、クッションに沈み込んで、目をつぶり、傷のある辺りに手を当てながら、答えた。
「それにね」
「そのアメリアね。……ルーにいじめられた、どうしようって、そこら中に相談して回ってるそうだよ。悪意があって、そんな話を広めてるのかは分からないけど、そんな女性に、頼れないよね?」
レオノールは、目を開け、私にそんな噂があることを教えてくれた。
夏の余韻が残る秋の始め、まだまだ暖かいというのに、避けては通れないトラブルの予感に、ふと、背筋が寒くなった。




