17
ここは、王都で1番大きい教会の前、ここにアメリアがいるかと思うと、緊張で息が苦しくなる。なにもせず帰る方法を考えるが、なにひとつ思いつかない。
「……では、行きましょうか……」
朝は、いいアイディアだと思ったが、段々とそう思えなくなってきた。だが、クラウスと約束した手前、帰ることもできない。そんなどうしようもない気持ちに合わせて、声も暗くなる。
「行く前から、そんなに落ち込まなくても……グリューに対峙した時のほうが、まだ強気でしたよ?」
グリューも、そうだそうだと言うように、にゃあと鳴いた。
「……そうね。……それに、よく考えたら、アメリアは、施しを受けたい人々の対応で、忙しいかもしれないし」
気休めを呟くが、グリューは、それじゃ意味がないと言うように、尻尾でバシバシと足を叩いてくる。
……それにしても、前は、アメリアの施しを受ける人々が長い列をなしていたのに、今日は影も形もない。人気がなくなるとは思えないが、どうしたのだろう。首をひねりながら、教会の中に入る。
「どうしたんですか?」
予想に反して、教会に入るなり、アメリアに声をかけられてしまった。零れ落ちそうな青い目を見開き、首をかしげて覗き込んでくる。いかにも、困っている人を放っておけない、という風情だ。
「あ、あ、の、……えーと、……?」
……なにを言えばいいんだっけ? 急に間近で出現したアメリアに、頭が真っ白になってしまって、言葉が出てこない。泣きそうになりながら、クラウスに振り向き、上目遣いで、助けを求める。
「……ふう……ザリア伯爵の娘、ルクレツィアお嬢様です。本日は、魔法の適性を見るため、判定の水晶をお借りできればと思い、参りました」
クラウスは、私を見て、ため息を吐くと、代わりに説明してくれた。
「ザリア伯爵のお嬢様! とても目立っていたので、誰が来たのかなと思っていたんです。……あの、ルクレツィアさま、はじめまして、アメリアといいます!」
アメリアは、大きく目を見開き、びっくりという風に両手で口を覆うと、ふわふわの金髪を揺らしながら、ぴょこんと頭を下げてきた。……少々大げさな立ち振る舞いに、若干、引きながら答えた。
「……ルクレツィアです。ご機嫌よう」
なんとか、声が出た。硬い表情のまま、会釈する。
「判定の水晶は、奥の部屋にあるんです。……私、案内しますね!」
アメリアが、親切に、直接、案内しようとするので、慌てて止める。
「あ、あの! ……アメリアさん、あなた、癒しの魔法を住民に施していると聞きましたわ。今は、忙しいのではなくて? 奥でどなたかに聞くので、案内は必要ないわ」
とにかくアメリアから離れたい一心の私に、クラウスは、冷たい視線を送ってくる。その視線を、ひたすら無視して、提案する。
「あ、実は、……連日、癒しの光を使いすぎて、グッタリしてたときに、偶然、ロランさまにお会いして。ロランさまが、私の体調を、心配して……わざわざ、陛下に掛け合って、30分に1人の予約制にしてくれたんです!」
「……ロランさまのこと、厳しいって言う人、多いんですけど、……本当はとっても、優しい方なんですよね」
アメリアは、頰が染まるのを隠すように、両手で頬を抑えながら、そう言った。
……先ほどから、アメリアが発言するたびに、行動するたびに、違和感があったが、ロラン王子の話を嬉しそうに話す姿を見て、つい、イラッとしてしまった。
……これは、悪役令嬢としての、宿命的な感情なのか。それとも、少女漫画的な主人公に、リアルで出会ったら起きる、普通の感情なのか……もしくは、私の恋心が、成せる技なのか……
「アメリアさん。……ロラン殿下は、私の婚約者候補です。あまり気安く、近づかないでいただきたいですわ」
感情の波にまかせて、つい、分の悪い賭けに挑んでしまった。




