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しばらく経って、落ち着いた私たちは、周囲を警戒してくれていたグリューに促され、露店のある街まで、戻ってきた。
グリューは、世話がやけるんだから、と言わんばかりに、後ろから、にゃあにゃあと鳴いて、追い立てる。
「……最初は、ザリア家の恩に報いるためにって、使命感とか義務感が強かったように思うんです。お嬢様は、急に現れたオレのことも、怖がらずに接してくれましたが、……オレの方は、もし嫌われたら、あの場所に逆戻りだって」
「……嫌われるのが怖くて、お嬢様の、どんなわがままも、聞いてしまってましたね」
クラウスは、グリューの鳴き声を気にした様子もなく、歩きながら、ぽつりぽつりと話してくれた。
「……でも、最近のお嬢様は、一生懸命ですよね。……あんなにわがままだったのに。……頑張ってるお嬢様をみて、オレも、怯えてばかりじゃいられないなって」
「……さっき、お嬢様は、オレのこと、明るくしてくれる存在だって言ってくれましたが、心の底では怯えながら暮らしてたオレが、そんな存在になれたんだとしたら、お嬢様が変えてくれたんだと思います」
クラウスは、私を見つめて、続けた。
「これからは、オレも全力で生きてみようと思います。お嬢様の側で」
「ありがとう……」
不器用だけど、真摯な言葉に胸が詰まった。
ふと、エドワードと訪れた露店が目に付いた。だいぶ、歩いていたようだ。
「クラウス。……よかったら、お揃いのブレスレット作らない? クラウスと私の絆を確認できるような」
なにげなく提案したが、クラウスの反応は、劇的だった。キラッと目を輝かせると、私の腕を掴み、グイグイと歩いていく。
「本当ですか?! ……実は、エドワードがつけてるのを見たときから、いいなあ、ずるいなあって思ってたんですよね。そうと決まったら、気が変わらないうちに、早く作りましょう! 早く! 行きますよ!」
「ちょっと、手を引っ張らないで! 痛いわよ」
文句を言いながらも、元気になったクラウスに、ホッとしながらお店へ向かった。
***
クラウスは、露店で買った、翠のペリドットがついたブレスレットを、日にかざして、ニヤニヤと嬉しそうだ。
私の右手にも、小さなオニキスがついたブレスレットが一連増えた。
「これで、気に入らないことがあって、涙をのんでも、こっちに思うさま文句を言ったりもできますね!」
クラウスは、嬉々として、おかしな発言をしている。
「ちょっと! 私の分身なんだから、大事にしてよね」
クラウスのテンションに、不安になりながら、一応、釘をさす。
「分かってますよ。……そうだ。落ち込んでいたお嬢様のために、ロラン殿下に、一緒に馬で散策してくれるよう頼んでおきましたよ」
クラウスは、何気ない風を装って、こちらを見た。
「……え?」
急に、ロラン王子の名前が出て、ドキッとした。思わず、聞き返す。
「ロラン殿下と、2人で出かけられるよう手配した、と言いました。グリューがいれば、2人きりでも問題ないと言われてます。……よかったですね」
クラウスは、優しい笑顔で、説明してくれた。
「……クラウス……ごめんなさい」
私は、いつだって自分のことだけで必死なのに、クラウスは、こんなつらい告白をしたときですら、私のことを考えてくれている。優しい思いやりに、申し訳なくなって謝る。
「ありがとう、でしょ」
クラウスは、優しい笑顔のまま、訂正してきた。
「……ありがとう、クラウス」
苦しくなった気持ちを抑えつけて、無理矢理、笑顔を返した。




