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「綺麗ね」
たどり着いた露店では、ネックレスやブレスレット、ピアスなどが、大きな布に所狭しと並べられている。一つ一つ、丁寧に並べられていて、商品への愛を感じる。
私は、目に付いたチェーンのブレスレットを指差すと、エドワードに言った。
「ね、このブレスレット、繊細で素敵ね。……そうだ」
今度は、露店のおじさんに声をかける。
「あの、……このブレスレットに、そこのピアスの石を付けることはできますか?」
「……お、おう。両方買ってくれるなら、この場で加工できるぜ」
露店のおじさんは、なぜか若干引きながら答えてくれる。
「じゃあ、2つ作ってください。1つは、……これ。琥珀かな? エドワードの目の色みたいで綺麗だから。あと、もう一つ、この翠の色の石ね」
「お嬢ちゃん、目がいいね。これは、小さいけど、ペリドットって宝石だよ」
露店のおじさんは、そういいながら、加工を始めた。
「あ、あの、ルー……」
エドワードが、困惑している。
「いいから、いいから。ほら、長さも調整してもらいましょう。エドは、ペリドットのほうね」
私は、構わず、エドワードの手をつかみ、露店のおじさんに向かって差し出す。
「よし、できた!」
露店のおじさんは、私とエドワードの手首にブレスレットをつけてくれた。
「ありがとう!」
私は、お金を払って、お礼を言った。
「毎度! あのよ、……余計なお世話かもしれないけどよ。……お嬢ちゃんも、坊ちゃんも、さっきから凄く目立ってたぞ。……この辺は、比較的安全だけど、人さらいがいないって訳じゃない。2人きりだと危ないぞ」
露店のおじさんは、心配そうに言ってきた。後ろで大人しくしていたグリューが、我がいるから大丈夫、と言わんばかりに、前に出てきて、にゃあと鳴いた。
「……いやいや、頭の良さそうな猫ちゃんだけど、2人を守るのは、無理だろ」
露店のおじさんは、グリューを撫でながら、そう言った。グリューは、喉を鳴らして、喜んでいるようだ。
「大丈夫! 強いから!」
「お? そうか、坊ちゃんは、そんなに強いのか。じゃあ、しっかり守るんだぞ」
その猫が、というつもりで話したが、露店のおじさんは、エドワードのことだと思ったようだ。エドワードに向かって、そう話す。
エドワードは、ハッと目を見開き、それから、さっきまでとは違う、強い眼差しで言った。
「……はい。僕が、……守ります」
露店のおじさんにお礼を言って、その場を離れた。少し離れた場所が、広場のようになっていて、食べ物や飲み物の屋台が出ていた。ジュースを買って、ベンチに座る。喉の渇きを潤してから、エドワードに話しかけた。
「エド。……私、このブレスレット見るたびに、エドのこと、応援するから。エドは、私を応援してね。……いつか、理想に手が届くよう、一緒に頑張りましょう?」
私は、そう言って、約束の握手をしようと、手を差し出した。
「ルー…………」
エドワードは、手を取ると、立ち上がって、私の前に跪き、ブレスレットに口づけをした。
「このブレスレットに誓うよ。……僕は、強くなる。……いつか、全てのものからルーを守れるように」
誓いの言葉を呟いたエドワードから、強い眼差しで見つめられ、思わず、心臓が高鳴った。幼いと思っていたエドワードが、急に大人びた気がした。




