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(……なんだと!)
グリフォンの怒りの咆哮に威圧され、思わず後じさる。
「す、すみません!」
どうしよう。つい、本音が出てしまった……泣きそうになりながら、謝る。
でも…………
「お気持ちは大変有り難いのですが……私、みんなから恐れられる存在になりたくないです。私が望むのは、好きな人から好かれることだけ。……だから、…………だから、世界なんていらない!」
悪役令嬢に転生して、全ての人から嫌われることを覚悟した。それを、覆すために、……そのためだけに、人生を賭けているのだ。ここで、諦めるわけにはいかない。強い意志で、グリフォンを睨む。
(むう。……頑固なやつめ。やはり、ザリアの血だな。…………仕方あるまい。愛されたいというならば、我の最も可愛らしい姿を見せてやろう。この姿を見て、落ちなかったものはいない!)
グリフォンが、一声いななくと、苦しそうに身を震わせる。そのまま、どんどんと小さくなり、両手で抱えられるほどの、白い猫になった。
(どうだ? 愛らしいだろう)
グリフォンは、自慢げに、にゃあと鳴いた。
……
…………
どうしよう。凄く断りにくい。
「あの、貴方の守護を受けるとどうなりますか?」
とりあえず、聞いてみる。
(そうだな。まずは、金の恵みが受けられよう。この守護が力を及ぼす限り、……10代先の子孫の時代まで、この金鉱が枯れることはないだろう)
(それから、王者の威厳だな。お主が本気になれば、全てのものは、恐れおののき、膝を屈するだろう。これらは、お主の祖先に与えたものだが、関わりが深いものほど、その影響を受ける。お主も、少なからず、その恩恵を受けているだろう?)
グリフォンは、自慢げに鼻を鳴らす。
……
…………
ザリア家の呪いの源流を見た気がした。……凄くいらない。しかし、このままでは帰れなそうだ。
「あ、あの、……そうだ。お友達になりましょう!」
困ったときのお友達作戦だ!
(友達だと?)
「はい! 素晴らしい提案ですが、貴方のような素晴らしい方と、一方的に恩恵を受けるためだけに、繋がるようなことはしたくありません」
いかにも、残念だ……という感じで、首を左右に振る。
「友達とは、尊敬し合う、対等の関係のもの。私から与えられるものがないうちは、貴方の恩恵は、受けられません。どうか、その時まで、友達としてお付き合いいただけませんか?」
話しているうちに、いいアイデアな気がしてきた。うんうん、やっぱり、対等じゃないとね。そんな日は、来ないと思うけど。
(ふむ。…………面白いことを言う娘だ。…………よし、ちょうど暇をしていたところだ。いいだろう。お主の提案に、乗ってやろう)
グリフォンは、ぴょんと、私に飛んできた。慌てて、抱き抱える。……手触りの良さに、思わずうっとりとしてしまった。ベルベットのように短く、白く美しい毛をなでると、グリフォンは、満山そうに、喉を鳴らした。
「あの、……お名前が無いと不便なのですが……」
ふと、気になって聞いてみた。
(お主が考えよ。それから、敬語は要らぬぞ。友達とは、対等な関係なのだろう?)
グリフォンは、尻尾をパタパタ振って、機嫌良さそうに答える。
「……では、グリューで。私のことも、ルクレツィアと呼んでね」
(安直だな。……まあ、悪くはない。よし、ルクレツィア。行くぞ)
「わかった。……ところで、この金鉱使ってもいいかな?」
(もちろんだ。好きなだけ使うといい)
グリューは、私の腕の中で、にゃあと答えた。




