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「ルクレツィアさま、あそこにいるのがグリフォンです。見えますか?」
オスカーが確認してくる。その姿は、かなり小さく、不自然なくらい金色に輝いている以外は、よくわからない。
「……いくらなんでも、ちょっと遠いわよ。……んー。……あ、」
岩陰から、背伸びをして目を凝らしていると、グリフォンと目が合った……気がした。
「あ……って、なんですか。大丈夫ですか?」
クラウスが、不安げに聞いてくる。
「……今、目が合ったかも」
私の発言を聞いて、周囲に緊張が走る。
「撤退しましょう!」
オスカーが言った、そのとき、グリフォンがこちらに向かって飛び立ち、着地の衝撃とともに、私の目の前に降り立った。
オスカーが、私とグリフォンの間に立とうとするが、それを手で制す。迂闊に動けば、攻撃されるかもしれない。
……しかし、大きい。見上げると壁のようだ。身長は、3メートルはあるだろうか。金色に輝く羽毛が、上半身を覆っている。顔は鷲に似ていて、前足も鳥のようなかぎ爪がついている。
下半身は、ベルベットのように艶やかな純白の毛に覆われていて、よく見ると、ライオンのような尻尾がある。あまりに迫力のある威容に、足が震えた。
(人間よ。我に何の用だ)
グリフォンの、地響きのような鳴き声とともに、頭の中に、言葉が伝わってきた。
……声をかけられた! 恐怖で身体が竦みあがるが、返事をしなければ、攻撃されるかもしれない。なにより、ここにいるメンバー、ひいては領地の皆の命が、私の対応に掛かっているのだ。泣きそうになる気持ちをなんとか奮い立たせ、声を振り絞る。
「あ、あの! ……ル、ルクレチ、」
噛んだ。言いにくい自分の名前に、思わず心の中で舌打ちをする。……深呼吸して、もう一度挑戦だ。
「……ルクレツィア=ザリアと申します。この金鉱を含む領地を収めるものの娘です。貴方さまのお名前を聞いても、よろしいでしょうか?」
(……名前は、忘れた。それより、何の用だと聞いているのだ)
……失敗した。弱気に泣きそうになるが、お腹に力を入れて、なんとか踏み止まる。領地のためにも、ここで引くわけにはいかない。
「失礼しました。金を採掘しているものたちが、貴方さまの威厳に恐れを抱いて、逃げ出してきましたゆえ、私が参りました」
震える気持ちを抑え、続ける。
「……ここは、ザリア領にとって、金を生み出す、最も大切な場所です。どうか、金鉱の採掘を続けさせては、いただけませんか?」
……金を好むというグリフォンの機嫌を損ねれば、全滅するかもしれない。でも、これを言わない訳にはいかない。祈るような気持ちで、返事を待つ。
(ふむ……先程、ザリアと言ったか、……ここが、最も大切な場所と言ったか?)
グリフォンは、頭を近づけてくる。
「はい! ザリア領の要です。どうか、どうか使わせてください」
怖い。そんな気持ちを押し殺して、頭を下げる。
(……守護を与えたザリアの坊主の子孫か……これほどの時が経っても、我が与えた金の恵みを、最も大切と言うのか。…………久しぶりに訪れてみるものだな)
グリフォンは、機嫌良さそうに喉を鳴らすと、言った。
(よし! 娘、ルクレツィアと言ったか? 我の守護を与えよう。我が後ろにつけば、全てのものが恐れおののき、道を開けるだろう。この世界を制するのも夢ではない)
「あ、いらないです」
そんなのいらない。……つい、条件反射で、言ってしまった。




