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ザリア領の兵士たちは、馬を降りると、私たちの前に整列して、敬礼した。
「ザリア防衛隊第1小隊長のオスカーです。今回の金鉱探索のリーダーを任されました!」
1人が一歩前に進み出て、敬礼と共に報告された。……これ、私に対して報告してるのよね。ちらっと周りを見るが、レオノールもエドワードも他人事な様子で静観している。
「あ、どうも。よろしくお願いします」
自分が責任者ということについては諦めて、挨拶することにする。礼をすると、クラウスに裾を引っ張られた。
「お嬢様、トップが下手に出ると、命令系統に混乱が生じます」
「……じゃあ、どうすればいいのよ」
クラウスが小声で話しかけてくるので、こちらも小声で返す。そんなこと言われても、どうすればいいのだ。
「とにかく、偉そうに命令してください」
追い詰められている私に、雑なアドバイスをしてくるクラウスを睨む。……むう。……ここで助けになる人はいない。偉そうにすればいいというなら、やってやろうじゃないか。
「ご苦労。ルクレツィア=ザリアです!」
手を後ろに組み、胸を張って、声を張り上げる。今日は乗馬のために、身体にフィットする白の上下に、茶色いロングブーツ、髪もポニーテールにしている。偉そうにしても、不釣り合いということはあるまい。
「ザリア伯爵不在のため、私が暫定的な指揮官です。金鉱に、魔獣が出たとの情報がありました。オスカー第1小隊は、ただちに現状の確認を行い、探索の準備をしてください」
調子に乗って、兵士たちを見ながら、左右に歩き始める。
「目的は、金鉱の安全確保。魔獣を撤退させられなければ、排除も許可します。金鉱の安全確保の決定は、同行する私がしますが、それまでの間の指揮権を、オスカー第1小隊長に移します!」
自分でも何を言っているのかわからないが、とにかく、指揮権をオスカーに押し付けることに成功した……はず。
「暫定的に指揮権が、私に移ったことを確認しました。ただちに現状の確認、探索の準備を始めます!」
とりあえずは、トップの重責から逃れられたようだ。よかった。
「オスカー第1小隊長、私の生命、預けましたよ?」
達成感から、満面の笑みでオスカーに念を押す。
「……はっ! この命に代えましても!」
……えー……そこまでは、望んでないんだけど。思いがけない重い答えに、内心ちょっと引くが、頑張って微笑んで頷く。
「なかなかよかったです。14歳とは思えない迫力と威圧感に、現地の住民も、一歩引いていますよ」
戻ると、クラウスは、満足そうに声をかけてくる。確かに、住民は先程より遠くにいる気がする……気合いを入れると悪役令嬢効果が出るのだろうか。それは、悪い兆候かも……
不安になり始めた私をよそに、オスカー率いる金鉱探索メンバーは、現地住民への聞き取り、探索準備を着々と進めている。
「ルー、格好よかったよ。ザリア家の本領発揮だね」
静観していたレオノールが、声をかけてきた。……ザリア家の本領を発揮したら、まずいのではなかろうか。
「本当に格好よかった! 僕もああなれるよう、頑張るよ」
エドワードも気に入ったようだ。目指すべき姿として、ありなんだろうか……
「エド、あなたはもっと親しみやすいザリア家を目指してもいいのよ?」
一応、提案してみる。
「……可愛いより、格好いいって言われたいの! ……ルーに……」
最後がよく聞き取れなかったが、背伸びしようとするエドが可愛くて、思わず頭を撫でた。
「もー! だから、それがやだって言ってるの!」
手を振り払われて、怒られた。髪の感触が気持ちいいのに。残念だ。




