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「ルクレツィアさま、もう少し気を楽に。馬が緊張してしまいます」
ルイ先生が隣の馬上から話しかける。
初夏の青々とした草原の中を、ルイ先生に教わりながら、馬に乗って操る。穏やかな馬らしいが、結構な振動だ。爽やかに草原を駆けることができるのは、いつになるのだろう。
「そう言われても……やっと馬に乗れるようになったばかりなのに、こんな遠くまで来るなんて……」
ルイ先生の言葉に、思わず泣き言を入れる。さっき馬に乗る練習を始めて、やっと1人で操ることが出来たところなのだ。
達成感に頰を紅潮させていると、ルイ先生は、はるか遠くを指差して、あの草原に行ってみましょうと、なんでもないことのように提案したのだ。
……内股がぷるぷるしてきた。ルイ先生に伝えると、身体の力を抜くといいですよとアドバイスをくれた。……いやいや、ここで力を抜いたら、あっという間に落馬する未来しか見えない。
……でも、経験者の言うことは、素直に聞いたほうがいいのかもしれない。言われたとおり、身体の力を抜くと、フワッと身体が後ろに浮いた。……落馬する! 落馬の衝撃に備えて、身体を縮こませると、ルイ先生とは反対側から、優しく力強い手が、背中を支えてくれた。
「レオ様。……ありがとうございます」
ほっと一息つくと、レオノールを振り向き、礼を言った。背中に感じる手が暖かい。
「良いんだよ。……ルーも頑張るよね。ロラン殿下と遠乗りしたいというだけで、やったこともない乗馬にチャレンジするなんて」
先ほどから静かに着いてきたレオノールが、しっかりと支えてくれている。私の体勢が戻ると、手を離し、声をかけてきた。馬に乗っているだけでも、結構な重労働だと思うのだが、それを全く感じさせない爽やかさだ。
ダンスといい、乗馬といい、こちらの世界の貴族というものは、意外と身体を使う。
「淑女って、こんなに身体を使うものなのですね」
レオノールに聞いてみる。
「いやいや、そんな訳ないよ。大抵のお嬢様は、一日中、ふわふわきゃっきゃと、おしゃべりを楽しんで暮らしてるよ。ルーは特別さ」
レオノールは、苦笑しながら訂正してきた。
「たくさんの女性に囲まれて、お砂糖みたいに甘い暮らしをしてたから、ルーといると、新鮮で楽しいよ。今日はいい天気だし、こうしているとデートみたいだね」
少し首を傾げて微笑みかけられて、サラッと流れる前髪とその笑顔に、思わずドキッとした。
「僕もいますよー」
私と同じ乗馬初心者のエドワードが、たまにふらつきながら、後ろから小さく呟いた。
「一緒に頑張りましょう。エドワード様」
同情したのか、同じく後ろからついて来ていたクラウスが、エドワードに声をかけた。
「……なにかありましたかね」
先ほどから静かに先を見通していたルイ先生が、呟いた。確かに、注意すると、喧騒が聞こえる気がする。
「金鉱のほうですね。行ってみましょう」
ルイ先生に従って、全員でザリア領の金鉱に向かうことにした。




