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ここは、ロラン王子の私室。あの後、ロラン王子の都合を尋ねたら、意外とすぐに了承をもらえて、慌てて着替えて、ここまで来た。
今日は、ロラン王子の近衛騎士も、侍女もいるし、クラウスもいる。そうだよね、これが普通だよね。侍女が紅茶を入れてくれるのを大人しく待つ。
「身体は、もう良いのか」
ロラン王子が、聞いてきた。
「はい。ロラン殿下には、ダリアの花束もいただいて、お気遣い、本当に嬉しく思いました。ありがとうございます」
立ち上がり、深々と淑女の礼をする。
気高いダリアの花々は、私の部屋のテーブルに、凛と立っている。
「よい。……花を選ぶのは不得手でな。」
……
…………
思いがけない一言に、おもわず唖然としてしまった。……え? もしかして、自分で選んだって言った?
「あの、……ロラン殿下が、選ばれたのですか?」
「……気に入らなければ、捨ててよいぞ」
ロラン王子は、憮然として言った。
「いえ、とても嬉しいです! ありがとうございます」
本当に嬉しい。思わず笑顔になる。どうしよう、急に緊張してきた。顔が赤くなっていくのが、分かる。
「舞踏会までの1ヶ月、かなり無理をしたのであろう。最後には、体調を崩してしまったようだが、充分、役目は果たした。その褒美とでも考えるがよい」
憮然としたままだが、内容は、優しい言葉だ。予想とのギャップに、現実を受け止めきれず、硬直してしまった。
「……気に入らぬなら、もうよい」
私の反応がないので、ロラン王子は、言い捨てた。
「あ、……違うんです! ……あまりに……嬉しくて……」
じんわり浮かんだ涙が、大きな粒になって、ポトリと落ちた。そのまま、泣くのを止められなくなった私は、静かに泣き続けた。
……
…………
「……失礼いたしました」
どのくらい、経っただろうか。泣き止んだ私は、やっと、それだけ言った。
「よい」
私が泣き止むまで、窓の外を見て待っていてくれたロラン王子は、振り向くとそう言って、頷いた。
……
…………
無言の時間が流れる。……どうしよう。あ、そうだ。
「あの、……ロラン殿下、これから、たまに、ここに来てもよいでしょうか?」
勢いで聞いてみる。
「ふむ」
ロラン王子は、思案顔だ。あわてて、つけ足す。
「あの、王家の出席できる夜会も限られていますし、……私のことを知ってもらう機会になればと……お邪魔にならないようします。…………ダメですか?」
……調子に乗りすぎたろうか。ロラン王子の反応の無さに、段々と声が小さくなる。
「……わかった」
長い沈黙の後、唐突に、ロラン王子が言った。
「え?」
思わず、聞き返す。
「いいだろう。だが、私は、普段、勉学や政務の手伝い、鍛錬などに忙しい。そうそう、構ってはやれぬぞ」
「もちろん構いません! ありがとうございます!」
私は、慌てて、笑顔で返した。




