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 私は今、アメリアのいる教会が、ギリギリ見える街角に、隠れて立っている。


「それにしても、王都の教会に行けば、貴重な光魔法の使い手の施しが受けられるなんて、陛下も、なかなか露骨な人気取りをしますね」


 クラウスが言った。


 アメリアは、陛下の意向で、王都の1番大きな教会に毎日いるようだ。噂を聞いて、すでに沢山の人が列を作っている。


「そうね。……ところで、もうちょっと近くで観察したいのだけど……」


 そんなことより、アメリアが豆粒のように小さいことが気になる。


「ダメです。騒ぎにしたくないんですよね。ここが、最大限近い場所です」


 クラウスは、譲らない。


「まあ、いいわ。ともかく、作戦を確認します」


 気を取り直して、説明を始める。


「クラウスと、傭兵のお2人は、あの行列に並んでもらいます。順番が来たら、クラウスは、アメリアの目を見て、少し話して帰って来てね」


「はいはい」


 クラウスはやる気なさげに返事をする。……態度が気になるが、まあいいだろう。


「傭兵のお2人は、クラウスがちょっとでも帰りたくなさそうだったら、引きずってでも連れ帰ってきてくださいね」


 傭兵の2人は頷く。


「じゃあ、ちょっと行ってきます。」


 クラウスは、あくまで軽い。……大丈夫だろうか。


「よろしくね。ちゃんと、目を見てね」


 不安だが、私にできることもない。出来るだけ目立たないように大人しく待とう。


 ……

 …………

 1時間ほど経って、やっとクラウスの番になったようだ。ここからは、どんなやりとりをしているのか、全く窺い知れない……


 クラウスはやっぱり恋に落ちて、私のことも嫌いになるのだろうか……1人で待っていると、不安がどんどん大きくなる。…………そうなったら、もう悪役令嬢としての役割を全うしてもいいかもしれない。


 放っておいても嫌われるくらいなら、こちらから嫌われるように全力を尽くすのだ。決意を新たにしていると、クラウスの番が終わったようだ。アメリアに手を振った後、3人でこちらに歩いてくる。


「…………それで、どう?」


 ごくりとつばを飲み込みながら、戻ってきたクラウスに聞く。


「そうですね。頭痛と肩こりが治りました」


 ……そんなことを聞いてるんじゃない。


「そんなことを聞いてるんじゃないの。……まあ、いいわ。どんなやりとりをしたのか教えて?」


 ため息をつきながら、続きを促す。


「そうですね。具合の悪いところはどこかと聞かれて、最近、お馬鹿な主人に振り回されて、頭痛と肩こりが酷いという話をしまして」


 クラウスの私への扱いが酷い。……主人公補正の力だろうか。


「……お馬鹿って、誰のことよ」


 一応、突っ込むが、クラウスは、構わず続ける。


「それは大変ですねといいながら、手をかざすと、フワッと光に包まれて、肩こりと頭痛が治りました。それで、お礼を言って、手を振って帰ってきたんですが……これ、意味ありますか?」


 クラウスが、聞いてくる。見る限り、態度に変化は無さそうだ。


「……そうね…………正直、もう少し劇的に態度が変わると思ってたの。私のことを、ゴミを見るような目で見るとか、罵倒するとか……」


「……オレのことを信じるとか言ってた口で、よくそんなこと言えますね。そんなことしたら、人間性、最悪じゃないですか。……ロラン殿下のようなことは、オレは、絶対にしません」


 クラウスは、憮然とした顔で、こちらを睨んでいる。


「わかったわ。……ちょっと、家に戻って、お母様に相談しましょうか」


「……えっ?! イヤですよ! 2人が揃ったら、ノリと勢いで、幽閉しようとか言い出しかねない! 絶対、イヤです!」


 クラウスは、全力で拒否してくるが、ここにいてもしょうがない。傭兵の2人に、目線で合図する。


 傭兵2人は、クラウスの脇を固め、歩き出す。


「……もう、好きにしてくださいよ」


 クラウスは、半ば引きずられながら、諦めたように呟いた。

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