16
「……もういいわ。あら、お父様」
クラウスと話をしていると、お父様がやってきた。
「ここにいたのか。探したぞ」
お父様の後ろに何人か見える。
「そちらのお客様は?」
「ウインザー公の嫡男、レオノール子爵だ。それから、こちらが、お前の家庭教師として呼んだルイ先生と、今度、この家に来ることになった弟のエドワードだ。仲良くするようにな」
レオノール子爵は、赤みがかった長めの前髪を、時折サラサラとかきあげている。普通なら嫌味になりそうだが、本当にかっこいいと違うらしい。たまに見える眼の色は、暗めの赤、かな?年は、18歳だった気がする。
ロラン王子以外は、必要があるときしか攻略してないので、記憶も曖昧だ。
「レオノールです。ごきげんよう、ルクレツィアさま」
レオノール子爵は、爽やかに紳士の礼をする。その所作はいちいち様になっていて、なるほど、女性に人気というのも頷ける。
「ごきげんよう、レオノールさま」
こちらも、なんとか淑女らしい礼を返す。
「婚約者候補ということだから、これから仲良くしようね。私のことは親しみを込めて、レオと呼んで?それから、私もルーと呼びたいな」
笑顔で続けられた。
「……もちろんですわ。レオさま」
正直、微妙だが、相手は格上。とりあえず希望に従い笑顔で返す。
「ありがとう、ルー。これから、よろしくね」
笑顔で机に陣取ると、出された紅茶を優雅に飲み始めた。
……笑顔は優しいが、これはなかなか手強そうだ。
「ごきげんよう、ルクレツィアさま。家庭教師のルイです」
話が一段落ついたと判断したのか、家庭教師のルイ先生が、挨拶してきた。アッシュグレーの長い髪を後ろで束ねている。眼鏡の奥の眼の色は、薄いグレー。
厳しそうだが、攻略対象だけあって、やはり綺麗な顔立ちだ。
「ごきげんよう、ルイ先生。これからよろしくお願いいたします」
こちらもなんとか礼を返すが、ルイ先生は目を細めて言った。
「……所作については、後ほど勉強しましょう。ザリア伯爵からは、どこに出しても恥ずかしくないように、淑女としてのマナーと知識を与えるように、と言われております」
……笑顔がなくて怖い。
「よろしくお願いいたします」
「それから、新しく来たエドワードさまにも、全ての教育を同じようにするように、と同じくザリア伯爵から言い付かっております。エドワードさま、挨拶を」
ルイ先生に促され、エドワードが、たどたどしく礼をする。
「エドワードです。ご、ごきげんよう、ルクレツィアさま」
……可愛い! エドワードは、確か12歳。まだまだ、幼さが残っているが、栗色の髪に、栗色の眼が綺麗。今後が期待できる美少年だ。
「ごきげんよう、エドワードさま。新しい環境で不安なこともありましょう、なんでも相談してくださいね」
自然と笑顔になる。
「あ、あの! 僕も、エドと呼んでください。あと、ルーさまとお呼びしたいです」
「もちろんですわ。エドさま」
「ただ、エド、と」
「では、私のことも、ルーで構いませんよ」
可愛いなあ……仔犬みたい。思わず、頭をなでなでしてしまった。
「あ、あの……ルー、僕も婚約者候補です! 子供扱いはしないでください!」
怒られた。
ロラン王子のことばかり考えていて、すっかり油断していたが、ゲームの主人公、アメリアの攻略対象が、全員登場だ。