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 ……さあ、おいで、私のお姫様。微笑みながらロラン王子が手を差し出す。

 私は、はにかみながら手を取る


「……様、…………お嬢様」


 ……ここは2人きりの世界。見つめ合えば、他にはなにも見えない。


「お嬢様。現実に戻って来てください」


「……クラウス。せっかく余韻に浸ってるんだから、話しかけないで欲しいのだけど」


 ここは、ザリア家の中庭。春の薔薇の咲き誇る庭は、空想の中の風景と比べても遜色はない。……ここに、ロラン王子はいないが。


「もう随分と長い間、お待ちしておりました。なにを想像されているかわかりませんが、ロラン殿下との話し合いは、そんなに素敵なものではありませんでしたよね」


「素敵だったわよ。クラウスだって、部屋から出てくる私とロラン殿下を見たでしょ?」


 ご機嫌なロラン殿下と真っ赤な私が、手を取り合って出てくる姿を見て、扉の前にいたクラウスはこの世の終わりのような顔をしていた。


「あのときは、この世が終わるかと思いました」


 言い切った。


「ルクレツィアお嬢様のお話は、要領を得なかったので置いておくとして、要は、自分の立ち位置を理解していなかったロラン殿下が、ザリア家の権勢に膝を屈し、お嬢様の温情により、1年間の自由が許されたということですよね」


「……クラウスは、ロラン殿下の前で発言しないほうがいいわよ。それから、全然違うから」


「お嬢様の話のほうが、ふわふわキラキラと現実感がありませんでしたが」


 クラウスは、相変わらず厳しい。


「…前から聞きたかったのだけど、クラウスは、ロラン殿下に随分、厳しいわよね。なにか理由でもあるの?」


 ふと、気になって聞いてみる。


「……お嬢様は、ロラン殿下と婚約される意味を分かっておりません」


 クラウスは、少し真剣な顔になると言った。


「分かってるわよ」


「いえ、分かっておりません。お嬢様と婚約すれば、これまで特に後ろ盾の無かったロラン殿下に、ザリア家という、強力な後ろ盾ができることになります」


 クラウスは、いつもの冷静さを脇において、強く話を続ける。


「そうなれば、ロラン殿下が、第1王子を押しのけて、王になる可能性が高まります」


「そうかもしれないわね。……クラウスは、私が王妃の器に無いと言いたいの?」


「そんなことではありません。私が危惧しているのは、王城では、お嬢様の身の安全が確保できないということです」


「身の安全って…王城は、王都で1番安全な場所でしょう?心配しすぎよ」


 思わず笑うが、クラウスは真剣に私を見つめてくる。


「私も全力は尽くしますが、全員が味方のこの屋敷と違い、王城内には、ザリア家の政敵も多くおります。人の出入りも多いので、例えば、末端のものを買収して、お嬢様に毒入りの食べ物が届くようにする、といったこともあり得ますが、これを防ぐのは困難です」


 ……あれ? 正直、もっと偏見に満ちた話なのかと思っていた。あわよくば、ロラン王子のイメージを良くするために説得を、と思ったが、難しそうだ。


 しかし、ロラン王子以外のルートは選びたくないが、命はかけたくない。


「……じゃあ、クラウスは、私がどうするのが一番いいと思うの?」


 参考になりそうもないが、一応、聞いてみる。


「そうですね。……ザリア領を継ぐ予定の親戚の方と一緒になっていただければ、この家に引き続きいられますので、お守りしやすいです」


「次点で、ウインザー公爵のご子息ですね。ご子息はお1人のみということで、政争とは無縁ですが、このご子息は、女性に大変人気があるそうで、嫉妬で毒殺という可能性はあり得ます」


「……毒殺って、よくあるの?」


 さっきから、毒殺、毒殺と、邪魔者を排除するのに、そんなにメジャーな方法なんだろうか。


「そう多くはないと思います。そもそも誰かが亡くなったとして、調べる術もないですからね」


 クラウスは、淡々としているが、当事者としては気分が悪い。


「…もういいわ」


 結局、深く考えるのは、やめにした。ロラン王子と、うまくいったら考えよう。

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