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「よく考えれば、下手をすれば一生拘束されるもの、と考えていたそなたとの関係を、1年で解消できるかもしれないのだ。私にとっても、益のない話ではないな」
ロラン王子は、首輪が外れた子犬のように、わかりやすく機嫌が良くなる。
……そういう理由を面と向かって言われると、さすがに面白くない。
「……ロラン殿下、今の発言は、為政者だったら問題になりますわよ?」
「……む、そうか」
「この1年は、私にとっても、憧れの中のロラン殿下ではなく、殿下ご自身と向き合うことになります。1年後に、お慕いするに足る方と思えなくなれば、私からお断りする可能性もありますことを、ご考慮くださいませ」
一応、釘をさしてみる。
……正直、どんな決断をしたって、優しく一声かけられるだけでひっくり返る自信はあるが、そこは乙女の虚栄心だ。どんなに好きでも、安売りはしたくない。
「言うではないか。まあよい。他にも条件があるなら話してみよ。今日はもう遅い。早いところ陛下に報告し、解散としようではないか」
ロラン殿下の機嫌は良いままだ。……意外と単純なのかな。ゲームの中のロラン王子より、今は幼く感じる。
「この1年の間、お茶会や夜会で、私をパートナーとしていただけますか?」
「今のところ、婚約者候補はそなたしかおらぬ。頼まれなくとも、そうなるであろうな」
「私は他に婚約者候補ができる予定です。彼らとの交流をお許しいただけますか?」
「無論だ」
……ノータイムで、全肯定。少しは嫉妬して欲しいと、贅沢な悩みが頭をよぎるが、話し合いが順調なことを喜ぶべきだろう。
「今はこれ以上思いつきません。なにか問題があれば、都度、ご相談させてくださいませ」
「……まあ、いいであろう。よし、いくぞ」
本当に一刻も早く解放されたいのか、素早く立ち上がり、手を差し出す。
……
…………
「えっ?」
「早くせよ」
……これはアレかな、あれだ。えっ? これに手を乗せるの? ……触れ合っちゃうんですけど。
あっという間に顔が赤くなる。どうしよう、手に汗をかいてきた。
「……あの、手に汗が……」
恥ずかしくて、また赤くなる。
「……面倒だな」
ロラン王子は、ため息を一つつくと、奥にある机の引き出しから、白い手袋を取り出し、はめた。
「これでよいであろう」
もう一度、手を差し出す。
私の王子様?! どうしよう、キラキラして見える。胸がドキドキとして苦しいが、もう死んでもいい。思い残すことはない。
「早くせよ」
「あ、申し訳ありません」
……あまりに理想的な光景に錯乱してしまった。震えながら手を乗せる。
王子様がお姫様をエスコートしてるみたい。舞い上がってしまって、もうなにも考えられない。雲の上のようにふわふわとする足元に、時々よろめきながら歩いた。