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結局、感情が高ぶって、涙が止まらなくなってしまった。
……
…………
「……失礼いたしました」
しばらくかけて、なんとか泣き止み、やっと、一言、言葉が出た。ハンカチで涙を拭う。
「……意味がわからん」
「慕っていると言うなら、婚約はそなたにとって最良の結果であろう。……私が断るならともかく、そなたが嫌がる必要はあるまい」
ロラン王子は不機嫌そうだ。
「私にとっての最良の結果は、ロラン殿下に好意を持っていただくことです。このような……ロラン殿下にとって不本意な形で、無理矢理、婚約しても意味がありません」
ロラン殿下の目を見てはっきり伝える。
「また面倒な……」
ロラン王子は嫌そうに顔を歪ませる。目を合わせるのがつらくなって視線が揺らぐ。……自分でも面倒なことを言っている自覚はある。でも、ここは引き下がれない。
「ほんの少しでいいのです。どうか、一旦、面倒だという気持ちを捨てて、話しを聞いてはいただけませんか? ……もし、国を継ぐことになれば、そのような機会もありましょう、その訓練と思って」
「……まあよい。どちらにせよ、そなたが納得できなければ、私もこの部屋から出られない。話してみよ」
ロラン王子は、私が引き下がらないと諦めたのか、ため息をつくと気だるげに手で促した。
「……ロラン殿下とお会いしたのは、本日で2回目ですが、実際に会っても、高飛車で、贅沢で、マナーもなっておらず、気にかける価値もない令嬢だ、と判断されますか?」
自分で言って自分で傷つく。また、じんわりと涙が出るが、ここで負けちゃダメだ。ロラン殿下から目は離さない。
「……初回はともかく、今日に限れば、マナーや態度がそこまで酷いとは言えぬな。もちろん、端々の所作に気になるところは多いが」
ロラン殿下は、少し考え、そう言った。
「ただ、贅沢に着飾っておる、とは思う。その服も、身につけている宝石も、城内でさえなかなか見ないものだ」
「確かに、私は、今までただ着飾るのが好きだったのだと思います。ただ、私の父からは、私はザリア領の豊かさを体現する存在だから、領地経営的な意味でも問題にしないと言われております」
「……ふむ。女性の着飾る行為を領地経営と結び付けて考えたことは無かったな。……確かに、少なくとも、普通のものは、そなたを見てザリア領に喧嘩を売ろうとは思わんな」
ロラン王子は、自分の今の状況を思い出したのか、自嘲げにつぶやく。
「見ていただきたいというのは、こういうことです。私を知って、ロラン殿下ご自身で、私の価値を測って欲しいのです」
「婚約は、我がザリア家側から一旦、取り下げます。家族からは、私の婚約者を決めるまで1年間の猶予をいただきました。足りないものは補う努力をいたします。その間、どうか、私自身を見ていてはくださいませんか?」
目を離さずに続ける。
「もし、1年後に、その結果として、それでも今と変わらず隣に立つのにふさわしくない、と言うならば、私もロラン殿下のことは諦め、他のものと婚約したします」
……
…………
ロラン殿下は、無言のまま動かない。
……ダメか……これ以上、私に出せるカードはない。全力を尽くしたつもりだが、もう諦めるしかないかもしれない。
「……いいだろう」
「え?」
「そなたの提案に乗ろうではないか」




