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「しかし、プライドの高いそなたのことだ。泣き叫んで責めるなり、罵倒するなりしてくるかと思ったが、泣き言一つ言わないとは、ずいぶんと殊勝だな」
ロラン王子が苦笑しながら続ける。
「陛下から言われたこともあり、今回は甘んじて受ける覚悟だったのだが、少し驚いたぞ」
あ、それでさっきフリーズしていたのかな?
そういえば、お母様に振り回されて色々あったせいか、つらかった気持ちが遠くにいっちゃってた……
でも、確かに思い出すと、ずいぶんと酷いことを言われた気がする。マナーがなってないとか、高飛車だとか、贅沢だとか……でも、お父様もお母様も否定はしなかったから、事実なんだろう。……ルクレツィアの失敗は、私の失敗だ。
「ロラン殿下が仰ったとおり、私が至らなかったのです。お父様とお母様に甘えて、自由に暮らしておりましたので、あのように、直接はっきり告げられて、思わず取り乱しました」
正直、だとしても初対面であそこまで言われるのは納得できないが、言っても喧嘩になるだけだろう。
「……私も、先日の私の態度について謝ろう。そなたに対する判断が間違っていた、とは今も思わないが、女性に対する振る舞いとして、確かに落ち度はあった」
ロラン王子は、頭を下げる。
内容は訂正しないけど、態度は悪かったと。……わかってたことだけど、言葉の端々から、私への評価の低さを感じる。
……
…………
好きな人に嫌われるってつらいな……
せっかくこんなに間近で、私だけに話しかけてくれるのに、遠いところにいるみたい。今も、陛下に言われて我慢してるのかな……してるんだろうな。じんわりと涙が出てきた。
「泣くな。……もうよい。とにかく、そなたの希望は私との婚約であろう。こうなってしまっては、私に拒否権も無い。そなたが落ち着いたら、2人の間で婚約の合意ができたと、陛下に報告に行って終わりにしようと思う。よいな」
ロラン王子の表情は硬いままだ。不本意だよね、そりゃ。
……やだなあ。……お父様もお母様も言う通り、こんな婚約つらいだけだ。目を伏せると、大粒の涙が落ちる。
「……いやです」
「……追加で条件が必要だとでもいうのか。私としては、最大限に譲歩したつもりなのだが。……いったい、なにが望みなのだ。」
ロラン王子の嫌そうな顔に心が折れそうになる。だけど、泣いていても始まらない。涙に濡れた顔を上げ、ロラン王子の目をしっかり見る。
……ここに来るまではドキドキして顔も見れないんじゃないかと思ったけど、意外と平気だ。今日から全力で努力するって約束したお母様のためにも、今、頑張ろう。
言葉は自然と口から出た。
「私……私、ロラン殿下のこと、お慕いしております」
涙がじんわり出てくるが、ぐっとこらえる。
「私の望みは、ロラン殿下にとって不本意な婚約ではなく、私のことを、偏見なく、噂に惑わされず、見ていただきたい。ただ、それだけです」