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私は今、ロラン王子の私室にいる。
あれから、馬車に乗せられ、お城に入るとロラン王子の私室に、直接、通された。陛下の意向ということで、本当に2人きりだ。ロラン王子付きの近衛騎士も、侍女すらいない。正直、この国の防犯体制が不安になるレベルだ。
ただ、私も、唯一連れてきたクラウスが連れていかれた。その意向を伝えられたクラウスが、反論すべく大きく息を吸い込んだところで、私は、慌てて近寄って、必死で口を塞いだ。
なにを話す気かわからないが、家でのあの感じのままでは、最悪、不敬罪だ。ダメ、絶対。最終的に、私と近衛騎士との見事な連携プレーで、口を塞がれたまま近衛騎士に引きずられて行く姿が、悲哀を誘った。さすがに、近衛騎士に力では敵わないようだ。
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ロラン王子は、私を机に座らせた後、無言で紅茶を入れている。最初に慌てて交代を申し出たら、手で制された。
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時計がないからわからないが、2人きりになって、30分は経った気がする。気まずい空気が強すぎて、長く感じているのかもしれない。
机には、時間帯に配慮してか、3段のティースタンドに、サンドイッチやスコーン、チーズとクラッカーが準備されていた。この国の人はスコーンが好きだな……時間が経ち過ぎて緊張感が無くなってきたのか、食べ物から目が離せなくなってきた。
……よく考えたら、私、朝ごはんから先、スコーン1個しか食べてない。考え始めたら、お腹が空いてきた。でも、告白の前にサンドイッチを食べるのも……いや、このままではお腹が鳴っちゃうかも……
好きな人の前で、サンドイッチを食べるか、お腹が鳴るのを聞かれるか……究極の選択を前にぐるぐると考えていると、ロラン王子がやっと声を発した。
「食べよ」
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「食べよ。今日は、マナーのことは言わん」
……おっと。いかん、いかん。つい、聞き惚れてしまった。
「ありがとうございます」
マナーがわからないのは今さらだろう。素直にサンドイッチをほおばる。緊張で口が渇いていたのか、なかなか飲み込めなかった。
ロラン王子が入れてくれた紅茶を飲みながら、3つほど食べると、やっと落ち着いてきた。
「ありがとうございます。朝からほとんど食べていなかったので、ご配慮いただき、助かりました」
席を立ち、私の想像出来る範囲で最大限、淑女らしく礼をする。
「突然のお訪ねにも関わらず、こうして時間を取っていただき、感謝します。また、先日は、失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」
体を起こして視線を合わせると、ロラン王子が硬直していた。
……また、なにか失敗しただろうか?不安になりながらも大人しく待つ。
「……構わん。座れ」
復帰したロラン王子に促され、座る。
……さっきは、つい食欲に負けてしまったが、なんだか重たい空気だ。私から話し始めたほうがいいのだろうか。
「あの、」
手で制された。
「……まずは、私から話したほうがよかろう」
「そなた、先日の件の後、ずっと泣きながら部屋に閉じこもっていたらしいな」
バレてる……余計な情報を流したのは、お父様か、お母様か……後で抗議してやる。
「ザリア伯爵と夫人が、大変な勢いで陛下に抗議してきてな。しばらくは、城中、その話で持ちきりであった」
……2人ともか。しかも、全員にバレてるとか…思わず遠い目になる。どおりで、ここに通されるまで、色んなところから視線を感じたはずだよ。恥ずかしさで、身が硬くなる。
「ご迷惑をおかけして、申し訳ありません。」
「全くな。おかげで陛下からは叱責を受けるし、ほうぼうから嫌味は言われるし、散々であった。」
ロラン王子の言葉を受けて、青ざめる。
「申し訳ありません。」
……正直、帰りたい。お母様につい乗せられてしまったが、この作戦、全く上手くいく気がしない。お母様には、サンドイッチのせいで失敗したと伝えよう。
私が穏便に帰る方法を模索していると、ロラン王子は硬い表情で伝えてきた。
「陛下には、2人ともが納得できる結論を得るまでは、部屋から出るな、と強く言われておる。」
……なるほど。簡単には帰れないようだ。