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「……て……のか」
「……聞いてるのか」
「答えよ。ルクレツィア伯爵令嬢」
……え?
……ときパラのロラン王子?
「ロラン王子!!」
つい叫んで立ち上がったら、ため息を吐かれた。こめかみを揉んでいる、そんな姿もカッコいい。それにしても、随分リアルな……
「ザリア卿は、私の婚約者としてそなたを推薦してきたというのに、その娘に淑女として最低限のマナーも身につけさせていないのか……」
「……っ! お嬢さま。王子のことは、ロラン殿下と……それから、非礼をお詫びする淑女の礼を……」
突然、後ろに立っていた男性が焦ったように近づいてきて耳元で囁いた。
「ひゃうっ!」
待って!耳は弱いんだってば!慌てて振り返る。
…え?待って。
「クラウス!」
ときパラのクラウスだ!
執事服似合うー。というか、距離近いな。
イケメンとこんな近くで目線を合わせるなんてドキドキする……目を合わせていられなくて、視線が彷徨う。
……なんかいい匂いもするし……あ、ヤバイ。昨日、歯磨いたっけ? 昨日は、仕事から帰ってそのままベットに倒れたから……
「もうよい! 話にならん! ……もう一度伝えるから、家に戻ってよくよく考えるように」
強い口調にびっくりして振り返ると、ロラン王子は、冷たく言い放った。
「…こたびのそなたとの婚約について、王は、金山を持ち、小麦の実り豊かなザリア領と縁が強くなることを歓迎しておられる」
「しかし、そなた自身について私に届く声は、けして良いものではない。私は、そなたには王の傍系に連なる資格は無いように思う」
「なにより、私自身、そなたのように高飛車で、贅沢に際限を知らず、淑女として必要な努力もしていないようなものを愛せるとは思えない。そなたは自分の容姿に自信があるらしいが、中身の伴わない美しさとやらに惹かれる日はけして来ない、と断言しておこう」
「今回は力及ばず話が進んでしまったが、私は、これからも全力でこれを阻止しようと考えている。……私との結婚は出来ないものと考えるように」
「話は以上だ。……下がれ!」
……事態が全く飲み込めない。昨日は突然発生したトラブルのせいで、日をまたいでプログラミングし直し、終電を逃して始発で帰ってベットに倒れこんだはず。次の日休みで本当によかった。
だけど、ロラン王子……今も、ものすごく冷たい目でこっちを見てるロラン王子。2次元の恋人しかいない私の大好きな人。
事態は飲み込めないけど、大好きな人に嫌われたことは分かる。…なんか息が苦しい。これまで誰からもあんなに冷たい目で……あ、本当に息出来ないかも。ヒュー、ヒューって聞こえるけど、これ、私? ……ダメだ。もう……
「……っ! お嬢さまっ!」
焦ったような声を最後に、私の意識はブラックアウトした。
2020年9月22日「身代わり悪役令嬢は今日も安寧を夢にみる」身代わり編完結。ラブコメを目指していますが、ラブはどこだ……(↓にリンク)