幕間 小さな少女の願い
今回はルーラとウタイの過去の話です。
「汚らわしい兎人族め!さっさと出ていけ!」
そんな罵声が聞こえる。
いつものことだった。
私が兎人族だからみんなは私を嫌う。
私が生きているだけでみんなは迷惑そうな顔をしていた。
私は生きてる価値のないゴミだと。
私はどこにも居場所などないと。
そんなことを聞かされながら私は育った。
両親は昔、人族に殺された。
同じ兎人族も今ではほとんどおらず、私は山奥の小さな小屋で来る日も来る日も食糧集めに必死だった。
生きる希望もない。
無価値な人生。
そんなことばかりが頭をよぎり何度死にたくなったことか。
しかし出来なかった。
両親との約束を果たすまで死ぬわけにはいかなかった。
そんなことばかり考えて生きてきて、13年がたったある日のことだった。
近くの森での食糧もとれにくい時期で私は仕方なく人里近くまで出ていった。
この年になってから私は魔法がそこそこ上手くなって人族そっくりに変身もできるようになったが、やはり人間は怖いのであまり町へは出なかった。
町に出ると私は何者かに背後から襲われ連れ去られてしまった。
男たちは私を魔物がいっぱいいるところに放り込むと一目散にどこかにいった。
後で聞いたことだがそいつらは近くの巣穴から卵を盗むために強力な魔物寄せのマジックアイテムを私につかって囮にしたそうです。
私は死を覚悟しました。両親と同じように最後には人間にはめられて死ぬ。
私の無価値な人生にはお似合いなのかもしれないと涙ながらに思う。
ああ、せめて一度でいいから心から誰かのために生きてみたかった。そんなことをおもいながら最後をむかえようとした時でした。
「うおー!」
そんな雄叫びが聞こえて私は顔をあげると、そこには私と同じくらいの年頃の男の子が似合わない剣を降りながら魔物を切っていました。
「ダメ!逃げて!」
思わず叫びます。
善意で助けてくれる人間だったら死なせたくない。
そう思い言った。言葉でした。
しかしそのあと聞こえてきた言葉に私は驚いてしまいました。
「大丈夫!すぐに助ける!」
助ける?最初はその言葉の意味がわかりませんでした。
私なんかにその価値はない。それどころか私を助けてもこの人にはなんのメリットもないはずなのになんで・・・
「やめて!あなたまで死ぬことはないわ!私なんか助けなくても・・・」
「大丈夫だから!すぐに行くね!」
「どうしてそこまで・・・」
理解できませんでした。
しかしその少年は私の言葉を聞いてか聞かずか必死に剣を降りながら叫んだ。
「襲われている女の子を助けるのなんてあまり前でしょ!」
「えっ!」
その台詞に私は思わず驚いてしまいました。
誰かに助けてもらったことなどなかった。
そんな私の気持ちを知るよしもない少年は圧倒的な力で魔物を倒していき、そして全滅させました。
「凄い・・・」
思わず呟くほどに少年は圧倒的な力でした。
と、ほどなく戦闘が終わった少年はその顔を優しげな雰囲気にかえて心配そうに私に話しかけてきた。
「大丈夫だった?」
「は、はい。あの、あ、ありがとうございます・・・。」
私はしどろもどろになりながらもなんとか返事をする。
すると私の返事を聞いた少年は心底安堵したように笑顔になった。
「そっか。よかったー。」
その表情をみた瞬間私は胸に何かが芽生えるような感覚に襲われたが、なんとか理性で質問した。
「どうして・・私を助けてくれたのですか?」
私のその質問に少年は少し困ったような顔をしたあと言った。
「困っている人がいたら助けるのは当たり前だよ。それに・・・」
「それに?」
「こんな可愛い女の子を助けなかったら勇者失格かなって。」
「か、かわ・・・!」
その台詞に思わず顔が赤くなるのを自覚しながら私はもうひとつの事実に驚く。
「ゆ、勇者様だったのですか!?」
「あーまあね。」
「私たらとんだ失礼を・・・」
「気にしなくて大丈夫だよ。」
「ですが・・・」
なおも食い下がろうとする私に少年は言いました。
「ならお礼に君の名前を教えてよ。」
「名前ですか?」
「うん。おれはミノミヤウタイ。君は?」
優しげにきく少年。
「る、ルーラです。」
「うん。やっぱり可愛い名前だ。」
男の子にこんなに可愛いと言われたことがない私はまたしても顔をあかくしてしまう。
「ルーラ、君に一つ聞きたいんだけど。ここら辺に獣人族の集落ってあるかな?」
「えっと、南の方に小さい村なら・・・」
「そうか。ありがとう。そこならいるかな・・・」
最後の台詞はひとり言だったのだろうけど聞こえた私は思わず質問してしまう。
「あの、誰か探しているのですか・・・?」
「ああ、いや違うよ。会ってみたいなと思ってさ。」
「獣人にですか?」
獣人は人族から嫌われやすい種族なので驚いてしまいました。
「変かな?」
「い、いえ。ただ大丈夫なのですか?勇者様は獣人と一緒にいたら人族からその・・・」
わたしの考えが伝わったのか少年は苦笑いしながらいいました。
「あまりいい顔はしないだろうね。でも俺は彼らに会ってみたいんだ。」
「どうしてそこまで・・・」
「だって人とか獣人とかそんなささいな問題俺にはどうでもいいからね」
驚いてしまいました。
「ど、どうでもいい?」
「うん。だって彼らって別に悪いことしてないのに人とは違うから差別されてるんでしょ?つまり彼らは悪くない。だから俺は彼らに会って歩み寄りたいんだ。」
「勇者様・・・」
あまりにもあっけらかんと言ったその台詞は私の胸にもくるものがありました。
「とりあえず近くの町まで送るよ。情報ありがとうルーラ。」
「は、はい・・・。あの・・・」
「うん?」
「もし仮に獣人族の人が勇者様の側にいたいといったら、勇者様は笑いますか?」
思わず聞いてしまった質問。
すると少年は真剣な表情で答えた。
「笑わない。」
「どうして・・・・」
「その人が本気で思っていることを笑うことなんて誰にもできない。それに・・・そういう人は輝いてるから好きだよ。」
その言葉で私に生きる希望ができました。
この人の側にいつかたてるようにしよう。
この日に救われた命を彼のために使いたい。
たとえ彼がみんなから敵にされても私だけは味方でいよう。
様々な感情が私のなかをめぐる。
この時の出会いが私の運命を大きく変えたのは言うまでもないことです。
そして多分この日。
私はウタイ様に恋をしました。