裏切者
頑張るぞい!
「見つけたぞー!勇者!」
ルーラとともに散策に出ていたらなんか変なのに絡まれた。
俺は即座に面倒な気配を感じたのでスルーを決めることにする。
「おい、こら!貴様だよ!そこの女連れの奴!」
なおも叫ぶ相手をスルーしてルーラとともに歩く。
「しかし、この辺の森は広いな。地図に乗ってない場所だけはあるな。」
「えっと、ご主人様。あちらの人は無視して大丈夫なのですか?」
心配そうな表情で聞いてくるルーラ。俺は安心させるように頭を撫でる。
「大丈夫だよ。きっと人違いをしている哀れな人だから。そんなことより早く行こうか。」
「無視するんじゃねー!」
流石に五月蝿くなってきたので俺は声の主へと顔を向けた。
「えっと、誰を呼んでるのか知りませんがやめてもらってもいいですか?はっきり言って迷惑です。」
「貴様を呼んだのだ、勇者ウタイ!」
「はー・・・、で何の用だよ。リン。」
声のである俺の昔の仲間の一人、リンはそんな俺の態度が堪にさわったのか物凄いお怒りな感じで俺を睨んできた。
「惚けるな。貴様が王国を裏切った訳を聴くために探していたに決まっておろう!」
「相変わらず見上げた忠誠心だな。でもだいたい女王から聞いてるんだろ?」
「では、本当なのか!」
「何を聞いたかは知らないが、少なくともお前たちのなかではそれが正しいらしいな。」
俺の答えを聞いたリンは先程とは比べ物にならないくらいに怒った様子でこちらを睨む。
「信じていたんだ・・・。貴様はどこか食えない男だが、その有り様だけは清く正しいと。なのに・・・。」
リンの言いようにルーラは少し不快な表情をしていたが、そんなことには気づかないリンは俺に向かって蔑むように言った。。
「この・・・裏切者め!」
その瞬間何かが切れる音が聞こえた気がした。
「・・・さい」
「ルーラ?」
「ふざけないでください!」
ルーラは見たことがないくらいに怒った様子でリンにそう言った。
「貴方が・・・貴女達が先にウタイ様を裏切ったくせに何が裏切者ですか!」
「な、裏切っただと、それはこの男の方だろうが!何も知らない村娘風情が偉そうなことをわめくな!」
「何も知らないのは貴女でしょう!ウタイ様がどれだけ裏切られ、ひどい目にあって傷ついたことも、昔の仲間のくせになんでわかってあげられないんですか!」
ルーラは本気で俺のために怒ってくれていた。
そんなルーラの態度を見たリンは馬鹿にしたような顔をしながら言った。
「ふん。そんな裏切者と一緒にいると貴様もいつかひどい目にあうぞ!貴様もどうせ裏切られるんだろうしな!」
「ウタイ様は貴女達と違って、そんなことしません!これ以上ウタイ様を貶めるのは許しません!」
「ルーラ・・・。」
胸が締め付けられる思いだった。俺のために本気で怒ってくれて、涙目になりながら必死で、ただひたすらに俺を信じてくれているルーラ。
リンはそんなルーラに対して蔑むように言った。
「ふん。やっぱり裏切者にはそんな下賎な輩がお似合いだな!」
そん瞬間俺の中で何かが弾けたようにルーラの元に歩みよってルーラを片手で抱き締めた。
「ウ、ウタイ様・・・。」
「ありがとう。ルーラ。」
顔を赤くして驚いた表情をするルーラに感謝を伝えて、俺はリンに向き合う。
「まあ、お前程度には分からないよな。こいつの魅力はな。」
「ふん。その程度の小娘に魅力だと?片腹痛いわ!」
「そりゃ、こっちの台詞だよ。お前程度がルーラを語るな。あと・・・」
その瞬間俺は拾った石を片手の指で強めにはじく。石は鋭い弾丸のようにリンの頬を掠めて遥か後方へと飛んでいった。
驚いた表情のリンに俺は自分が裏切られ相手に対して思った感情よりさらに濃い怒りを込めて言った。
「ルーラを貶めるのは俺が許さん。例え元仲間でもな。」
「貴様・・・。」
「勘違いするなよ。俺はお前のことなんか今はもう眼中にすらない。何もしなければ俺も何もしない。たが・・・」
ルーラに負担がかからないようにリンに対してだけ威圧を込めた。
「ルーラに手を出したら本気で殺すぞ?」
青い顔をしながらもこちらを睨みつけるリンに俺は最終警告のように手近の木の枝を拾い横に凪いでみせる。
バキッ、と音がして近くの岩と樹木が折れた。
そこでルーラは俺の実力を思い出したのか青い顔をして逃げるように去っていこうとして・・・
「あーと。最後にひとつ忠告だ。」
俺が前に立ちふさがった。
「命が欲しいなら忘れろ。」
そして俺はリンにとある粉をぶちまけた。
たちまちリンは意識を失い、寝た。
そんなことがおこっている間もルーラは何故かさっきよりも顔を赤くして俺の腕の中で顔を埋めていた。
「あの、この人どうするんですか?」
ややあって落ち着いたのかルーラはリンをみて聞いてきた。
「とりあえずここでのことは忘れてもらえるはずだから大丈夫だよ。」
「忘れてもらえる?」
「ああ、そういうマジックアイテムを使ったんだ。」
俺がさっきリンにかけたのはマジックアイテム【惑わしの粉】効果はかけた相手に直近の1時間以内の記憶を完全に封じるというもの。もちろん欠点も大きいが今は大丈夫だろう。
「さて、そんなことよりこいつを放置してさっさと戻ろうか。」
「はい。行きましょう。」
さっきの件があるせいか普段は優しいルーラがリンの放置に同意してくれた。
そんなこんなで最悪の再会がおこったりした。が、俺はルーラのことを明確な形で意識するきっかけになった事件でもあった。