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「あーあ、やっぱり、こんなことになったね」
自分を追っている大狼の声とは明らかに違う、愛らしくコロコロとした子供の声に、嘉埜は顔を上げた。
緑色の大きな一ツ目に、泥でぐしゃぐしゃになった嘉埜の顔が映っているのが見える。
「てめえどこ行ってやがった……」
嘉埜には、涙声でその一言を返すのがやっとだった。
「どこだっていいじゃないか」
一ツ目は、嘉埜の様子など気にも留めずに、浮世の苦労など一つも知らぬという風で答えた。
「それとも何かな? 僕がいなくて寂しかったかい?」
もし生きて家に帰れたらサッカーボールのように蹴り飛ばしてやろう。
嘉埜はひっそりと心に決めた。
「さて、どうするのかな、嘉埜?
奴はもうすぐに追いついてくるよ。
あまり迷っている暇もないんじゃないかい」
「どうしたらいい、私は……」
「うん? それは……奴に殺されないようにするにはどうすればいい?
って意味かな?」
時間がないと言っておきながら、態と勿体つけた話し方をする一ツ目への苛立ちを抑えつつ、嘉埜は頷いた。
「ここまできたら、選択肢は絞られているだろう?
仮に逃げおおせたって、明日になればまた教室で顔を合わせるわけだし……」
一ツ目は困ったふうにそう言うと、ふさふさした尻尾を揺らして嘉埜の顔のすぐ横へ駆け寄った。
「今の君に僕が提案できるプランは二つだよ。
奴を殺すか、自殺か。
君はどうしたい? どっちを選ぶ?」