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でも、私を刺すために僅かに前傾した大狼のネクタイは、ちょっと手を伸ばせば届く位置にきていた。
ぷらぷら。
揺れてる。
そう言えば、父親がネクタイしてるとこ、少しだけ見たことあるかもしれない。
赤ちゃんのころ?
赤ちゃんて、こういうの触りたがるよね。
人間の本能なのかな。
私はネクタイに手を伸ばし、それを掴んだ。
指先から悪寒が生じ、全身に回る。
ビリビリと静電気のような感覚が、徐々に強くなる。
ネクタイを握る手首に激痛が走った。
その痛みに反射的に腕を引いた。
ネクタイは握ったまま。
思いがけず強い力が出て、大狼は泥に頭から突っ込んだ。
引き換えに、ナイフは更に深く突き刺さった。
私は血の混じった咳をした。
ごぼごぼと粘ついた血混じりの粘液が、口から顎へそして首へ流れる。
大狼の顔がすぐ近くにある。
虚を突かれたような顔だ。
よくわからないけど、チャンスだ!!
霧が晴れるように、私の意識は覚醒した。
チャンスだ。
失敗はできない。