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「……うぐ」
右側面から強い蹴りを喰らい、私は力なく仰向けに横たわった。
大狼の持つナイフが閃くのが見える。
「たすけ……」
「あ? なんだって? ハッキリ話せ」
出ない力を振り絞り、しゃがみ込んだ大狼のズボンを血まみれの左手で握りしめた。
「遺言が……ある」
もちろん嘘だった。
これで今生最後になるかもしれない。
「お前の遺言なんかキョーミねえよ」
そんなこと言わずに。
説得のための言葉は、声にならなかった。
あーあ、人間って脆いんだ。
ちょっとお腹切られただけなのに。
なんか、気持ち悪いかも。
痛みと出血で頭がグラグラして、嘔吐感もこみ上げてきている。
大狼の胸で、緩く結ばれたネクタイがだらし無く揺れていた。
ぷらぷら。
あれ、掴みたいなあ。
もう少しだけこっちに近づいてくれればいいのに。
「聞いて……お願いします……」
懇願する私の腹に、容赦なく二度目の凶刃が踊った。
いたい。しんじゃう。