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「あーあ、久しぶりに笑った笑った」
実に七、八年心から笑った覚えのない私は、普段使わぬ筋肉が刺激されて少しだけ心地よさを感じた。
「何かと思えば運命だのなんだの……今日日魔法少女アニメでもそんなクサい台詞はないっつーの!!」
もっとも魔法少女アニメなど、両親不在で運良く家に一人残されたときにしか見たことはないが、近頃はガキも進んでいるというからたぶんそうなんだろう。
「いいのかな〜、そんなふうに言って。
これは君の人生が好転するかどうかのビッグチャンスなんだよ?」
「あーあー、そうか。わかったわかった」
一つ目の太いしっぽを掴んで宙吊りにしてやる。
「確かにそうだよ。こんな新種の生物。
新聞社か出版社か、テレビ局にでも持ってけば大スクープだ。
美人JK新種発見、なんて見出しが踊れば私も一躍時の人だ。
いくら貰えるのか楽しみだよ」
下世話な皮算用をはじめると、なんだか愉快な気分になってきた。
なんてったって、ロクに働かずして金が得られるのだ。
不労所得!
まさかそんな夢のような物が現実になるとは、考えれば考えるほど胸が踊る。
「嘉埜、君が何をしたって自由だけどね。
何をするにしても慎重であるに越したことはないよ。
たとえば、その扉を開けるときとか」
そんな子供騙しな脅しに誰が乗るか。
私は意気揚々と女子トイレの扉を開けると、るんるん気分で歩き出した。
否、歩き出そうとした。