7.日常の亜人7
結局、考えても何も浮かばなかったので、俺は木の枝を組んで(担架のような形状)緑豚を乗せ、片側を持ち上げて引っ張っている。たぶん車輪のないキャリーみたいなものだ。これで少しは重さを軽減できているはずなんだが・・・あまり自信がない。こんなものを引っ張っていても、驚くことに疲れをあまり感じていない。魔法とかスキルなんかのチートだったら、もっと良かったのに・・・。猫ちゃんに聞いたところ、魔法というものは、亜人には使えないので、亜人の中で育ってきた自分は見たことが無いということだった。てぇーことは、あるにはあるらしいってことだな。(猫ちゃんは色々隠している)
それじゃあ、猫ちゃんたち獣人は、魔物からどうやって身を守っているんだ?そもそも魔物がいるのか?てゆーか、いったいどんな社会なんだろう?暢気に半年も一緒に暮らしてて、そういったことはまるで聞かなかった。まさか異世界に行けるなんて、思いもしなかったからな。
「亜人たちは、特別な能力があんのか?」
「うーん、アタシたち猫族は、身体能力が発達してて鼻も耳も夜目も利くわ」
「武器とか使わないんかい?」
「大抵は逃げるのが基本かな。追い詰められたら爪を立てるくらい」
「うむむ・・それってまじで猫と同じじゃないか。そんなんでよく生き残ってきたな」
「でもさ、日本の人たちより力あるし、足も速いし、強いと思うよ」
「あはは、まぁそうだよな。てか人間弱すぎだからな。武器や兵器で持ち堪えてるみたいなもんだからな」
「そうね。人間って賢いのは認めるわ。道具とかびっくりよ」
骨の広場までは、これで運べるんだが、そこから先は狭くて無理だな。だからとりあえず狭い穴の手前まで運んで、猫ちゃんに家に置いてある包丁を、取ってきてもらうという段取りだ。あそこならそんなに危険はないと思った。根拠はないけど。まぁ危なくなったら逃げるってことで、豚が囮になってくれるし。ちなみに豚はまだ生きている。殺す手段がないというか、撲殺くらいならできるけど、死んだら新鮮じゃなくなるからね。骨の広場で死なれても困るし、精霊に食われるからな。
日帰りの異世界探索だったが、収穫はでかかった。解体は家庭の切れない包丁だったが、猫ちゃんは手馴れたもので、肉屋さんのようにブロックごとに切り分けて、俺が少しずつ家まで運んだ。今は腰の痛さにヒーヒー泣いている。あの中腰地獄はなんとかしないと、今後の探索に支障がでる。
我が家は電気も水道も止められているので、大半を燻製にして、食べられるだけは、焼いたりして食べた。大っぴらに煙を出すと、通報されかねないので夜中に作業を集中した。山へ入れば、サクラやブナ、ナラなどの木はたくさんあるんだが、これを使うのは、素人には無理っぽいので諦めた。ホームセンターでスモークウッドというものを購入してきた。多少の出費はしかたがないと諦める。ついでに山へ入って、ブナやナラの木を切り倒して、乾燥させることにした。スモークには使えないが、燃料にはなるのだ。まぁ山にも持ち主はいるわけで、勝手に切っていいわけはない。なので目立たないように間引く程度だ。俺はすでに犯罪者だからね。緑豚を現代に持ち込んだだけでも、犯罪なのは間違いない。
「おっちゃん、それがなんで犯罪なのよ」
「防疫っていうのがあるんだ。もしあれがなんらかの病気を持ってて、俺たちが食って病気になって、それが広がったらまずいだろ?」
「ふーん、そんなこと考えもしなかったわ。でも食べたけど病気になってないわよ」
「まぁあれだよ、猫ちゃんがこの世界に来ていることも、いろいろとまずいんだけどさ。病気とかは免疫とかもあって、一概に掛かるもんでもないけどな。まぁ建前的な手続きが必要だったり、解釈が必要だったりするわけよ」
「めんどくさいのね」
「だけど、どうせもう色々と遅いよ」
「うん、結構こちらに入り込んでるかもしれないもんね」
「こちらで産まれた亜人ってのも、出所がかなり怪しいからさ」
「だよねぇ、物扱いだし」
「まぁいざとなったら、あちらに逃げ込めばいいし」
俺なんか、いつ死んでもおかしくないからな。とは、猫ちゃんの前では口にしなかった。猫ちゃんもある程度あちらの探索進んで、テリトリーみたいな場所が見つかれば、もうこちらに来る必然もないからな。こんな年寄りと暮らす必要も無い。「私を追い出すつもりなの?」なんて怒るけどさ、もっと若い良い男みつけてほしいよ。
亜人がいて、ダンジョンがあって、異世界が存在している。まだ魔物には遭遇していないが、精霊はこの目でしっかり見た。魔法もありそうな雰囲気だし、俺強くなれるしな。ファンタジーぽくなってきたぞ。だけどあれだな、向こうへ行けば誰でも、強くなるってことだよな、なんか嬉しさ半減だな。
今度行くときは、もうちょっと装備を整えないとな。せめて武器になるようなものを、でも金ないし・・・無理か。
「なぁ、なんか金になりそうなもの向こうにないかな」
「なにがお金になるの?」
「めずらしいもの?向こうに店とかあるのか?通貨とかってある?」
「うんあるよ。武器とか防具とか薬とか売ってるし、銅貨とか銀貨とかあるよ」
「武器って槍や剣だろ、こっちに持ち込めないしな。こんなご時世に、そんなもの買ってくれるかわからんな。薬も論外だな・・・うーーん・・・」
「宝石とかは?」
「!あるのか?いや、そりゃあるよな。でもお高いんでしょ」
「掘れば?」
「えっ!?掘る?掘れるの?まさか掘るのに権利が必要で、べらぼうに高かったりしないのか?」
「いや、権利なんてないし、そこらへん掘るだけだし」
「なんやとぉ!そこらへん掘ったら宝石出るんかい!?」
そんなわけで、急遽再びあちらへ行くことになったのでした。