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来るべき世界  作者: うらじろ
第一部 老人異世界へ行く
28/29

28.移住しようか

 言ってからしまったと思ったが、後の祭りである。震える声で誤魔化す。元々が小心者なのでこうなってしまう。


「あぁ申し訳ない。色は俺にしかわからないんです」


「そうなんですか」


「えぇ色で違いがあるのかどうか分りませんが、一応分けておきますね」


 俺は皮袋に、白、青、黄色と3種類の袋ごとに分けて渡した。油性のペンで、袋に色を書いておく。


「確かに私が見ても違いは分りませんね。前野様のよりは大きいようです」


「その調べた魔核からはどんなレアメタルが出たのですか」


「えっと金ですね。それと若干のチタンといったところですか」


「えっ!金?金ってゴールド?」


「えぇその金です」


「金ってレアメタルなんですか!?」


「レアメタルというから、とても珍しい金属と思われがちですが、希少なものであればレアメタルなんですよ。だから価値があるんです」


 俺は金なんて誰もが知ってる金属なんで、レアメタルだなんて考えてもいなかった。誰も知らない=レアメタルじゃないんだね。


「成分の結果が出たら報告に参ります。それでは皆様失礼致します」


 丁寧にお辞儀をして帰っていくのを、手を振ってお見送りした。


「やっぱり金貨売るんじゃなかった」


「田中殿、仕方ないですよ。まるっきり損したわけじゃないから、いいじゃないですか」


「そうだよ。それよりもあの魔核にレアメタルってのがたくさん入ってれば、ウハウハじゃん」


 ウハウハなんてどこで覚えた。




 何もしていないようで何かしているのが、政府だった。まぁ結果が伴っていないわけだが・・・。異世界の入り口は発見次第封鎖はしていたが、全ての穴を塞ぐのは不可能というもので、恐らく誰かしらが穴の向こうへ行っているのは間違いないことであった。なにも俺たちだけではないと思っている。そして当然政府としても穴の向こうを調べているのに違いない。防衛省との関係もある研究所が、動いているくらいだから。現役の自衛官が、向こうへ行って帰って来たという既成事実が作られてしまった。いずれ政府から直接俺のことを調べに来るに違いないと思う。安穏としている場合ではないだろう。



 こちらの世界は安全だった、強盗がやってくるか、戦争が勃発するか、災害でも起こらない限り安全だ。しかし安全は腹を満たしてくれない。でも安全なので、少し気を緩めることもできた。サビアともゆっくり話ができた。でも、結局なにも進展することはなかった。なぜなら、俺の能力はサビアの使う魔法とは違うものだし、なぜそういうことが出来るのかなんて分らないからだ。すべて憶測でしか説明できない。ちなみにサビアの魔法は此方でも使える。簡単な傷くらいなら治癒も可能だが、ただ弱々しいの一言だ。魔力が足りてないのだ。


 サビアは妖精や精霊は信じているが、実際にそれを見たことは無い。おそらく異世界の人たちは存在を理解はしていても、見たことのある人は少ないのかもしれない。俺は信じていなかったけど、あれが見えた。あの淡く光る幻想的な妖精の光を。俺が持っている骨が放つ光は、妖精の光と同じものだ。たぶんそれが俺に何かチカラを与えてくれているのだと思う。何故かはわからない。


 

 帰還してから二週間ほどが経過して、何度目かの老人たちの訪問があった。みんな元気がない。活力がないというか、しょぼくれてしまっている。帰還直後は元気いっぱいだったのに。家族との再会では、若返ったねとか言われていたらしい。俺と猫ちゃん、サビアはそんなことはない。魔物の肉で生活していることもあるし、骨からの不思議な力のせいもある。


「田中さんよぉ、いつになったら行く気になるんかね。わしらはもう覚悟はできてるんだぜ」


「なんだか疲れてるんか?顔色が悪いぞ」


「ほんとだな、わしらが急がせすぎたんかな」


「えっ?俺そんなに顔色悪いか?」


 猫ちゃんもサビアも今の今まで気にもしてなかったようで、心配そうな顔で俺の顔を覗き込んできた。


「まさかね、おっちゃんが病気になるわけないよね」


「光線の加減だろ?俺こんなに元気だぞ。それよりもだ、大事な用事が終わらないと出発はできないんだよ」


 うんうん。俺だって此方にいても面倒ごとに巻き込まれる可能性が高くなってきたんだ。しかし俺を頼ってもらって嬉しいとは思うけど、ちょっと重いんだよな。気軽に温泉でも行くような雰囲気で言わないでほしいもんだ。なんせ死ぬ可能性がかなり高いわけで、実際に帰ってくるときに死んでるだろ?あの密林地帯が無ければ、それほど難しいわけじゃないんだけどな。なんにしてもうまいこと出来てやがる。あっちの魔物は穴が小さくて大型の魔物は来られない、魔力が薄くて長生きできない。此方からは、同じように穴が細くて発見しずらくて通り抜けも容易ではないし、抜けたら抜けたで密林に阻まれて通り抜けるのが困難。猫ちゃんみたいな能力がないと、魔物に襲われてお陀仏だ。


「あんたらも準備だけは怠らないようにな。簡単に戻ってこられないんだからな」


「あんたが連れてってくれんと、わしらだけでは無理だからのぉ。無理なことばかり言ってすまんな」


 じいさまたちは、此方の世界の農地を奪われたので、向こうで農業をやるつもりらしい。まぁ土地は腐るほどあるから出来ないことはない。危険さえ承知なら。しかもまだまだ不明なこともたくさんある。向こうには便利な機械はないので、昔のように人力でやらなければならない。小さな農機具くらいなら持ち込めるが、永久に使えるわけではないので、いずれ元の世界に戻って補給も必要になる。そのときどうするかというのもある。そもそも老人なので、いつまでも生きてられない。今回行くことを決断しているのは、4人の老人と引き篭もりだった親子・・・厨二なのか?トラックの運転手は家族に反対されて、断念したらしい。普通の人間ならそう判断するだろう。小説やマンガじゃないんで、無双なんて出来やしないからな。


6人を3人で守りながらならなんとかってところかな。一度経験しているから、守られる彼らも守られ方を理解している。自衛官の3人の死は、恐怖によるパニックから無謀な行動での死亡だった。俺の能力も確実に守れるのは二人が限度だと思う。光で自分の周りを包み込むんだが、容積が増えればそれだけ効果は薄くなるわけで、自分を中心に光の膜で覆っていくのと密着した状態で三人を覆うのとでは、より沢山の光の膜が必要なので、安全な厚さ?(光に厚さがあるのかは知らないが)にするにはこれ位が限界だ。人数が増えると光の厚さだけじゃなくて、俺が身動きできなくなるのだ。しかも、幕を密着させていたら、衝撃が直接身体に伝わるので、ある程度身体と膜の間に空間が必要でもある。密林のような場所だとさらに色々な障害もある。結局魔物を倒して守るしかないのだ。



 遠山氏との約束の一週間後、いろいろと嬉しい報告とともに彼はやってきた。




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